盛り上がる国内ゲーミングカルチャーの
裏の立役者「RAGE」の正体と思惑

Z世代を代表する「界隈」といえば、ゲーム実況をはじめとしたゲーム関連コンテンツを思い浮かべる人も多くなってきた昨今。eスポーツという単語もそろそろ日本に根付いてきたのではなかろうか。

コロナ禍を経て急速に浸透した「ゲーミングカルチャー」。ネットカルチャーの類と思われがちではあるが、近年では動員数が1万人を超えるオフラインイベントも存在するほどに熱狂を巻き起こしている。

国内ゲーミングカルチャーの熱狂の立役者を聞かれると、誰もが口を揃えて彼らの名前を挙げるだろう。

それが、「RAGE」である。

先日行われた、「VALORANT Challengers Japan 2024 Split 2 Playoff Finals」の様子©RAGE

eスポーツ文化を根付かせる集団
「RAGE」とは

RAGEとは、eスポーツに様々なエンターテインメント性を掛け合わせた、eスポーツイベントおよび新たな常識に挑戦するeスポーツエンターテインメントである。

2015年に誕生したRAGEは様々な人気ゲームタイトルを扱い、プロゲーマーや人気配信者などが出演するイベントを開催しており、ゲーム好きなら一度は耳にしたことがある存在だろう。

そのRAGEを先頭で引っ張ってきた、CyberZ執行役員でRAGE総合プロデューサーを務める大友真吾氏に、国内ゲーミングカルチャーの動向を聞いた。

日本はeスポーツ後進国だったのか
RAGE誕生秘話とこれまで

©RAGE

RAGEのイベントのみならず、昨年2023年は米国「Riot games」の人気タイトル『VALORANT』の世界大会が日本で開催されるなど、eスポーツの熱狂を感じられる年だった。大友氏の目には2023年の界隈の姿はどのように映っただろうか。

 

大友真吾(以下、大友):RAGEとしての転機は、コロナ禍の規制緩和を受け、2022年春に東京ガーデンシアターで行われた「RAGE VALORANT 2022 Spring」にあって、当時はまだ珍しかった有料の大規模なオフラインイベントが成功したことが2023年以降のイベント開催を急加速させていく契機になりました。

RAGE目線の2023年はeスポーツだけではなく、プロ選手や配信者などのステークホルダーを巻き込んだゲーミングカルチャー全体にわたってビジネスの領域が広がっていく実感が湧いた1年だったと強く感じます。

ここでいう配信者(ストリーマー)とは、主にYouTubeやTwitchなどのライブ配信プラットフォームでゲーム実況配信を行っている活動者のことを指す。彼らは、個人若しくは事務所に所属し、広告収入を得ることで活動を続けている者が多い。近年、ゲーム実況配信を行う配信者やVTuberが出演する大会などのイベントが、オンラインオフライン問わず頻繁に開催されている。

 

大友:プロシーンとカルチャーシーンのどちらかに絞って、という考え方では産業の成長は難しい。実際、Z世代のゲーマーたちは、「eスポーツをやっている」という感覚ではなく、「ゲームをしている」という感覚のままです。実態を踏まえて、あえてeスポーツをしていると思われる必要はないからこそ、キーワードは“ゲーミング”になってくるかなと思います。

日本にゲーミングカルチャーを定着させつつあるRAGEはどのような経緯で今日のポジションを築いたのか。

 

大友:2015年にRAGEを立ち上げた当時は事業部としてではなく、「OPENREC.tv」というゲームに特化した配信メディアプラットフォームの1オリジナルコンテンツという立ち位置で、既存のeスポーツコンテンツの放映権だけではなく、独占コンテンツに人を集めようという試みでした。

初期から2018年にかけては、視聴者数やイベント動員数でとにかく日本で一番になろうという目標設定で、高額賞金つきの大会や複数のゲームタイトルを混ぜたフェス、プロリーグ戦の放送など、多様なシーンや形式を模索しました。国内eスポーツのナンバーワンブランドになるために、様々なことに挑戦したRAGE第1期とも言える時期ですね。

2019年からRAGEはCyberZの事業部として切り離され、本格的に事業として投資フェーズから収益を追いかけられるような状態に変わっていきました。2017年のエイベックス・エンタテインメントの参画に加え、2019年よりテレビ朝日も加わり、少しずつ戦略を変更していった中で、2020年東京オリンピックのタイミングでの世界大会開催を企画していました。

実際には、コロナの影響から、当初予定した世界大会というわけにはいかなかったものの、「RAGE ASIA」として、地上波とも連動したコンテンツ実施に至り、複数のゲームタイトルでプロやストリーマー、お笑い芸人、YouTuberなどが競い合う大規模なイベント開催を成功させることができました。

有観客イベントを企画・運営するRAGEとしては、コロナ禍の環境は苦しいものではありました。ただ、コロナもあいまってと言うべきか、ゲーム配信の同時視聴者数が劇的に伸び、今ではゲーマー層以外も知るようになった『Apex Legends』や『VALORANT』といったFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)の人気拡大が追い風となり、プロシーンとストリーマーシーンが交差したカルチャーモデルへと変わる機会でもありました。それまで、ゲーム配信の同時視聴者は数万人単位だったのが、十数万人単位へと桁が変わったタイミングもここですね。

無料で見られるのが当たり前だったeスポーツイベントが、2022年の東京ガーデンシアターにおけるイベントを皮切りにチケットを有料化。国内のeスポーツイベントの動員数最多である2万6000人超を誇る、さいたまスーパーアリーナでの「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2 Playoff」へとつながったという流れです。

ゲーミングカルチャーと
スポンサーアクティベーション

オンライン、オフライン問わず、圧倒的な人数を集めているゲーミングカルチャー。RAGEはその魅力をどのように、イベントの協賛企業に伝えているのだろうか。

 

大友:先ほど挙げた、同時接続数も参考値としては有効ですが、1つのイベントで50万人近くのユニークユーザー数があることを伝えることが多いです。(個別のIPアドレスにつき一度しかカウントされない)ユニークユーザー数は、そのイベントを配信で視聴した人数の総数としてわかりやすい。また、RAGEのイベントのファン層がZ世代に極めて集中していることや、ゲーミングマーケット全体のエンゲージメントの高さも魅力です。

 

また、最近では協賛企業の商品やサービスが企画になっていることも多い。協賛企業側のメディアで企画を行ったり、演者の個人SNSに露出するなど細やかな工夫が散見される。

 

大友:イベントの休憩中にCM流すといった、従来型の広告配信だけでは、そこまで価値を見い出せていなくて、イベントの一コンテンツとして、一部として取り入れることを重要視しています。スポンサーの商品やサービスを演者、裏方に理解してもらったうえで、ゆるく雑な手段だとしても、丁寧かつ自然にプロモートしていくことで理解を得られ始めていると感じています。

日本がゲーム大国に返り咲くために

これまで多くのコンソールやゲームタイトルをヒットさせ、まぎれもなく“ゲーム大国”と呼ばれてきた日本。しかし、PCゲームを中心としたeスポーツカルチャー自体は、後進国と呼ばれることもあった。日本のeスポーツの現在地とは。

 

大友:かつては大会規模や視聴者数など、あらゆる側面からeスポーツ後進国と呼ばれる日本でしたが、今はだいぶ違う状況です。ゲームタイトル次第では世界でもトップワン・ツーの人気を張るようなものも現れてきた。もう後進国とは呼べないですね。

RAGEの一つの目標に、「スターを生み出す」ということがあります。フィギュアスケートなどのマイナースポーツが国民から一定の支持を得られているのは、国民的スターの存在がブレイクスルーになったから。現状、ゲーミングカルチャーという“ムラ”の人気者がたくさんいる状態から、“クニ”の人気者が生まれることが今後も重要だと思っています。

日本のeスポーツシーンに観戦文化があまり根付いていなかったことも課題のひとつでした。eスポーツ先進国においては、競技人口を上回るほどに観戦人口がいますから。ただ、その問題もかなり改善していて、例えば『VALORANT』のイベントのオフライン会場に来るという消費行動として極めてハードルが高いエンタメに、実際に『VALORANT』をプレイしていない層がかなり来場しているという点は変化を感じられるポイントですね。

そういったなかで、eスポーツイベントを観戦できるならココというような数百人規模の常設の施設ができたりすると、より観戦文化の定着にはつながっていくと思います。RAGEのコンテンツも年間250日近く配信を行っているので、そういった場所で夕方以降、スポーツ観戦に行く感覚で毎日のように楽しめるような場所があれば嬉しいですよね。

では、10年後、日本のeスポーツシーンの理想像をRAGEはどのように描いているのだろう。

 

大友:配信ももちろんですが、現地で観戦する体験の特別さをどれだけ高められるかを考えています。10年あれば様々なテクノロジーの変化が期待できます。今できている体験に他のエンタメにはないプラスアルファで、eスポーツの現地観戦でしか得られない臨場感を生み出せる。そう確信しています。

 

2024年8月、「RAGE WORLD CHALLENGE in Bangkok」を開催。
RAGEは国内で育ててきたゲーミングイベントの熱狂を東南アジアに広げつつある。

日本とタイの双方で人気の高いVTuberを主体にゲームを通した国際的な交流を行うといった内容で、終日延べ1000人の観客を動員した。

世界でのチャレンジを模索する上で、北米、ヨーロッパ、東アジアと各地域のeスポーツが醸成している中、東南アジアは日本以上に成長産業である上にマーケットのパイも他の地域に匹敵する。

RAGEはeスポーツにとどまらず、VTuberやストリーマーなど様々なスターと彼らを取り巻くファンダムを引き連れて、国際的なゲーミングマーケットにおける日本のプレゼンスを引き上げる存在としてこれからも我々を驚かせてくれるに違いない。

© YouTube / esports_RAGE
Top image: © RAGE
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