貯めるだけでは不安な時代の、金融リテラシー入門

米国の消費者金融大手Synchrony(シンクロニー)が発表した最新の消費者調査が、金融教育をめぐる興味深い実態を浮き彫りにしています。「お金の知識は学校で教えてほしかった」──そんな声が、いま国境を越えて広がりつつあるようです。

7割が望む「学校での金融教育」

Synchronyが四半期ごとに実施している消費者調査シリーズ「In Sync with Consumers」の最新結果によると、学校で個人の資産管理(パーソナルファイナンス)について学んだ経験があると答えた米国消費者は、わずか39%にとどまりました。一方で、約70%の消費者が「金融リテラシーは学校で教えるべきだ」と回答しているとのこと。この調査は、18歳以上の米国消費者1,500人を対象に、2026年1月から3月にかけて実施されたものです。

学んだ人は4割に届かないのに、学ぶべきだと考える人は7割。このギャップは、金融教育が「あればよかったもの」として多くの人の記憶に刻まれていることを物語っています。実際、米国では近年、各州レベルで高校での金融教育を必修化する動きが加速しており、消費者の声と制度整備が同じ方向を向き始めているといえるでしょう。

貯蓄と投資の「自信格差」

今回の調査で特に目を引くのが、「貯蓄」と「投資」に対する自信の非対称性です。個人や家計の予算管理に自信があると答えた消費者は69%だったのに対し、投資に自信があると答えた人は46%にとどまりました。同社の発表によれば、自分の金融リテラシースキルが高いと自己評価した消費者も約56%と、決して高い水準ではありません。

「毎月の家計はなんとかやりくりできる。でも、投資となると途端に不安になる」──この感覚は、日本に暮らす私たちにとっても非常に身近ではないでしょうか。日本政府が長年掲げてきた「貯蓄から投資へ」というスローガンも、まさにこの心理的な壁を乗り越えることを目指したものです。金融庁が2022年に実施した「金融リテラシー調査」でも、日本の消費者の金融知識には偏りがあり、特に資産運用や投資に関する理解が相対的に低い傾向が示されていました。

つまり、「貯蓄はできるけれど投資は怖い」という感覚は、日米を問わず共通する構造的な課題なのかもしれません。そしてその根っこには、体系的な金融教育を受ける機会の不足があると考えられます。

「一度学べば終わり」ではない

Synchronyの調査でもうひとつ注目すべきデータがあります。75%の消費者が「金融リテラシーは生涯にわたる学びの旅であり、常に新しく学ぶべきことがある」と回答した点です。

同社のチーフ・クレジット・オフィサーであるMax Axler氏は、「予算管理、貯蓄、投資、与信の使い方を、特に早い段階で理解することで、消費者はより強く、よりレジリエント(回復力のある状態)になり、賢い金融判断ができるようになります」と述べています。同社は今後、全国の教室での金融教育拡大に向けた慈善活動を加速させるほか、消費者向けに無料のクレジット教育リソースを提供していく方針も明らかにしました。

金融教育を「学生時代に一度受ければ完了するもの」と捉えるのではなく、人生のステージが変わるたびにアップデートしていく「生涯のインフラ」として位置づけ直す。この発想の転換は、非常に重要ではないでしょうか。

日本にも広がる教育の土壌

日本でも2022年度から高校の家庭科で金融教育が必修化され、2024年には金融経済教育推進機構(J-FLEC)が設立されるなど、制度面での整備は着実に進んでいます。しかし、すでに社会に出ている成人層に対する継続的な学びの場は、まだ十分とはいえない状況です。

今回のSynchronyの調査が示しているのは、金融リテラシーとは単に「投資で利益を出すための知識」ではなく、「人生の各場面で自律的にお金の判断ができる力」だということ。そしてその力は、一朝一夕に身につくものではなく、学校教育を起点としながらも、生涯を通じてアクセスできる学びの仕組みがあってこそ育まれるものだという視点です。

「お金のことは自分でなんとかするもの」という自己責任の枠組みから、「誰もが学べる環境を社会として整える」という公共的な発想へ。その転換の兆しが、海の向こうの調査データからも、そして日本の制度改革からも、静かに、しかし確実に見えてきています。

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TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。