ブルックリン発ストリートウェア:診断コードを「着る」という静かな連帯

ブルックリン発のアパレルブランド「Insanely Cozy Designs」が、精神疾患の診断コードをプリントしたストリートウェアを正式ローンチしました。医療が個人に貼る「ラベル」を、自ら選んで纏うファッションへ。その試みが問いかけるものとは。

診断コードがデザインになる

同ブランドが扱うのは、ICD-10(WHOが定める国際疾病分類第10版)やDSM-5(米国精神医学会の診断マニュアル)で実際に使われる英数字の診断コードです。自閉症の「F84.0」、PTSDの「F43.10」、ADHDの「F90.2」など56種類のコードを、帽子やフーディー、Tシャツに刺繍・プリントして展開しています。

興味深いのは、このコードが持つ「二重の読まれ方」でしょう。大多数の人にとっては洗練されたタイポグラフィにしか見えません。しかし当事者やその周囲の人には、日常の現実そのものとして映る。開示するかしないかの選択権が、着る人自身に委ねられている構造です。

創業者自身の「飲み込みにくい薬」

創業者のDave Buchwald氏は、双極性障害を持つ回復中の依存症当事者で、30年以上の断酒歴があります。人生の後半になってADHD、自閉スペクトラム症、複雑性PTSDの診断を受けた経験を持ち、「飲み込みにくい薬だった。経験豊富な薬の飲み手にとってさえ」とユーモアを交えて語っています。

この個人的体験がブランドの原点になりました。同氏は「Insanely Cozy Designsはエージェンシー(主体性)に関するブランドだ。自分がどう見られるかを自分で選ぶこと」と説明しています。

「選ぶ」行為そのものの力

製品はすべて受注生産で、ガーメントの種類、カラー、刺繍糸やプリントの色、56種の診断コードから一つを選ぶカスタムオーダー方式。組み合わせは1,000通り以上にのぼります。

ここで注目したいのは、当事者が自分の診断コードを「選ぶ」という行為自体がエンパワメントのプロセスになっている点です。医療制度の中では受動的に割り振られるコードを、自らの意思でファッションに落とし込む。その反転が、静かだけれど確かな主体性の回復につながっているように感じます。

ブランドスローガンは「You can't choose your brain, but you can choose your style.(脳は選べないが、スタイルは選べる)」。2026年5月のメンタルヘルス啓発月間に合わせたローンチですが、Buchwald氏はこれを一過性のキャンペーンではなく「スタートライン」と位置づけ、通年展開を明言しています。

近年、メンタルヘルスへの関心が高まる一方で、啓発が「月間イベント」で終わってしまう課題も指摘されてきました。日常のワードローブに溶け込むかたちで当事者性を表現できるこのアプローチは、啓発と自己表現の新しい接点を示しているのではないでしょうか。

Top image: © iStock.com / Gam1983
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