釣り人こそ「気候変動の当事者」だと気づかせるイベントが面白い
栃木県大田原市で管理釣り場を運営する「株式会社キングフィッシャー」が、2026年7月26日(日)に気候変動をテーマにした体験型イベント「CAST FOR THE FUTURE」を開催。「このままでは100年後に釣りができなくなる」——その危機感から生まれた、全国的にも珍しい試みです。
水温が語る「釣りの未来」
管理釣り場で気候変動を正面からテーマに掲げるイベントは、全国でもほとんど例がないといいます。なぜ今、釣り場がこのテーマに向き合うのか。その背景には、現場で起きているリアルな変化がありました。
釣りのターゲットとして人気のニジマスは、水温が20℃を超えると大きなダメージを受けるとされています。同社の施設では那須連山の湧水を利用しているにもかかわらず、近年は水温上昇による魚の活性低下が増えているとのこと。さらに2026年春には渇水が発生し、魚に深刻な影響が出たそうです。
栃木県が公表する将来予測では、最も排出量の多いシナリオ(SSP5-8.5)において、21世紀末に県内の平均気温が20世紀末比で約4.5〜5.5℃上昇すると見込まれています。この数字を釣り場の水温に置き換えると、「100年後に釣りができなくなる」という言葉が決して大げさではないことがわかります。
加えて、高水温や豪雨による養魚場の被害が各地で相次ぎ、魚の仕入れが不安定になり価格も上昇しているという現実も。気候変動は、釣り人にとって「遠い未来の話」ではなく、すでに足元で進行している問題なのです。
「我慢」ではなく「楽しむ選択」
イベントの内容がユニークなのは、環境問題を「我慢すべきもの」としてではなく、「未来を楽しむための選択肢」として提示している点でしょう。
会場ではスタンプラリー形式で各ブースを巡りながら、日常生活や釣りを通じて実践できる環境アクションを体験できる構成。省エネや再生可能エネルギーの体験ブース、地元農家の協力による地産地消の飲食ブース、電動車からの給電デモンストレーション、そしてソーラークッカーでニジマスの塩焼きを焼く体験まで。全ブースを回った参加者には、イベント限定デザインのオリジナルスプーン(ルアーの一種)がプレゼントされたそうです。
「環境イベント」と聞くと少し身構えてしまう方もいるかもしれませんが、釣り場という日常の延長線上で、遊びながら学べる設計になっているのが印象的です。
釣り人は「水辺の守り人」
同社の代表取締役・手塚史規氏は、1993年生まれ。大学卒業後に旅行会社勤務を経て、2018年に経営危機にあった家業を継ぐためにUターン入社し、長年の債務超過を立て直して2025年に代表に就任したという経歴の持ち主です。栃木県の地球温暖化防止活動推進員も務めています。
手塚氏は「2025年夏の暑さと2026年春の渇水で魚が弱る姿を目の当たりにし、危機感を抱いた」と語り、「釣り人は水辺の守り人」だと表現しています。
この言葉には、ハッとさせられるものがあります。考えてみれば、釣り人ほど水温や水量、季節ごとの自然の変化を肌で感じている人たちはいません。趣味を通じて自然環境の「定点観測者」になっている——その気づきを、気候変動アクションの出発点にしようという発想は、とても自然で説得力があるのではないでしょうか。
近年、アウトドアやレジャーの領域で「趣味の持続可能性」を問う動きが少しずつ広がっています。産業や経済の文脈で語られがちな気候変動ですが、「好きなことが続けられなくなるかもしれない」という切り口は、私たちの感情にもっとも直接的に届く言葉かもしれません。
同社のブランドメッセージは「ヒトに、夢中を。」。管理釣り場を「魚を釣る場所」から「自然の中で夢中になれる時間を提供する場所」へと進化させたいという想いが、今回のイベントにもしっかりと反映されています。100年後も夢中になれる水辺を残すために、まずは釣り竿を握りながら考えてみる。そんな一歩が、ここから始まろうとしています。






