古代の知恵が未来の冷房に?「スワンプクーラー」再注目のワケ

猛暑の夏、エアコンのスイッチを入れる。それが当たり前すぎて、ほかの冷やし方なんて考えたこともない——そんな常識を静かに揺さぶる装置が、いまアメリカで改めて注目されています。名前は「スワンプクーラー」。100年以上前に砂漠で生まれた、水の蒸発で空気を冷やすシンプルな仕組みです。

粘土の壺から始まった「水で冷やす」知恵

AP通信の気候担当記者Alexa St. John氏が英インディペンデント紙に寄稿した記事によると、蒸発冷却の原理は古代文明にまで遡ります。

粘土の壺に入れた水の上を手で扇ぎ、気化熱で空気を冷やす。何世紀も前から使われてきたこの素朴な手法を、20世紀初頭のアメリカが機械化しました。

1908年、アリゾナ州でOscar Palmerという人物が米国初の蒸発冷却システムを完成させます。ファンで外の熱い空気を取り込み、水を含ませた多孔質のパッドを通過させる。水が蒸発するときに周囲の熱を奪い、冷えた空気が室内に届く——原理はいたってシンプルです。

1930年代までにこの装置は南西部一帯に広がり、砂漠の暮らしを一変させました。私たちがイメージする「エアコン」が米国で標準的になったのは、実はそのあとの1950年代のことです。

「冷やすほど温暖化が進む」悪循環を止められるか

では、なぜ今さら100年前の技術が話題になるのか。背景にあるのは、冷却とエネルギーをめぐるジレンマです。

果物・野菜向けの蒸発冷却技術を研究する非営利団体CoolVegの創設者Eric Verpolegen氏は、こう警鐘を鳴らします。「暑くなるほど冷却が必要になり、より多くのエネルギーを消費し、温室効果ガスの排出増加につながる悪循環がある」。

エアコンは快適さと引き換えに大量の電力を使い、排熱で街をさらに暑くする。冷やせば冷やすほど地球が熱くなるという皮肉なループです。

クリーンエネルギーに取り組む非営利団体RMIのAnkit Kalanki氏は、「エアコンがなく気候が許す場所では、蒸発冷却装置は低コスト・低エネルギー消費の良い解決策だ」と評価しています。

もちろん万能ではありません。湿度が高い地域では蒸発が起きにくく、冷却効果は大幅に落ちます。日本の夏を思い浮かべれば、そのまま導入するのは難しいでしょう。

エアコン「一択」を疑うことから始まる

ただ、「湿度が高いから関係ない」と切り捨てるのはもったいない話です。

Kalanki氏によれば、蒸発冷却と湿度管理を組み合わせた「ハイブリッド型」の技術開発が世界各地で進んでいるといいます。乾燥地域の知恵と現代のテクノロジーを掛け合わせることで、より多くの気候帯で使える次世代の冷却装置が生まれようとしているのです。

日本でも猛暑と電気代の高騰は毎年のように話題になります。「冷房=エアコン」という一択の思い込みを少しだけ緩めてみると、古代から続く「水で冷やす」発想の中に、未来のヒントが眠っているのかもしれません。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。