同じ缶の酒なのに、なぜか“おしゃれ”。英国を席巻する「缶カクテル」の正体

英ガーディアン紙が報じた、イギリスの缶カクテルブームが面白いんです。ロンドンの地下鉄で缶入りマルガリータを片手にパーティーへ向かう人々——その光景が「だらしない」ではなく「洗練されている」と受け止められているという話。

5年で購入量3倍超
イギリスの棚を埋め尽くす「缶カクテル」

飲料データ分析企業IWSRによると、イギリスで2025年に購入されたプレミックスカクテル(あらかじめ混ぜて缶に詰めたカクテル)の総量は、2020年の3倍以上に達しました。

大手スーパーのマークス&スペンサー(M&S)は約40年前から缶カクテルを販売していますが、いまや40種類以上を展開。夏の週末には1分間に150缶が売れると同社は主張しています。

オカドやセインズベリーズといった他のスーパーも各50種類ほどを棚に並べ、街角の小さな商店の冷蔵庫にまで高級バー品質をうたう缶カクテルが入り込んでいます。

マーケティング業界ではこの現象を「the great tinification(飲料の大缶化)」と呼んでいるそうです。あらゆる酒の組み合わせを缶に入れ、ミニマルなデザインを施せば商品になる——そんな時代が来ているわけです。

中身はほぼ同じなのに
「缶ビール=だらしない」が覆る理由

ここで興味深いのは、缶という容器の「意味」が書き換えられている点です。

ヘルシンキ大学の社会科学教授デイヴィッド・イングリスは、ガーディアン紙の取材に対し「列車でビールを飲む人と缶カクテルを飲む人では、後者のほうが『上品に飲んでいる』と見なされる。これは純粋な記号論だ」と分析しています。

中身の構造は、1990年代に「若者の飲酒を助長する」と社会問題になったアルコポップ(甘い炭酸アルコール飲料)とほぼ同じ。甘くて、手軽で、安い。それなのに缶カクテルが道徳的な批判を免れているのは、パッケージデザインと「カクテル」という言葉が持つ文化的な格のおかげだと記事は指摘します。

容器が変わったのではなく、容器に貼られた「意味」が変わった。飲んでいるものはほとんど同じなのに、社会的な受け止め方がまるで違う。これはなかなか痛快な逆転です。

次にコンビニの冷蔵庫を開けたら
缶の「格」が違って見えるかもしれない

この話を聞いて思い出すのは、日本のストロング系缶チューハイをめぐる議論です。アルコール度数9%の缶チューハイは「危険な酒」として批判の的になり、メーカーが度数を下げる動きも出ました。

一方で、日本でもプレミアム路線の缶カクテルは少しずつ存在感を増しています。コンビニの棚に並ぶ缶の「格」が、デザインひとつ、ネーミングひとつで変わりうることを、私たちもどこかで感じているのではないでしょうか。

結局、お酒の「品の良さ」を決めているのは、中身のレシピでも度数でもなく、容器に宿った物語なのかもしれません。次にコンビニの冷蔵庫を開けたとき、缶のラベルがちょっと違って見えたら——それはもう、記号の魔法にかかっている証拠です。

Top image: © iStock.com / Dedy Andrianto
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。