中国・雲南省に288mのガラスエレベーター、3時間の通学を30分に短縮
片道3時間、往復6時間。急な山道にはしご、雨の日は滑る岩場——それが、中国・雲南省の峡谷の底に暮らす子どもたちの「通学路」でした。その風景を一変させたのは、道路でもトンネルでもなく、崖に張り付いた高さ288メートルのガラスエレベーターです。
道路を敷けない峡谷が選んだ
「垂直に上がる」という解法
舞台は雲南省宣威市の泥猪河大峡谷。谷底の集落は海抜約1,100メートル、子どもたちが通う崖上の小学校は約1,650メートル。高低差は500メートルを超えます。
かつて地元当局は山道に足場を削り、鎖を設置するなどの改善を試みましたが、雨天時の危険は消えませんでした。多くの児童は寄宿生活を送り、10日に一度しか家に帰れなかったといいます。
2022年、最初の崖面エレベーター「青雲」(高さ268メートル)が開業。そして2026年7月末、その隣に2基目の「扶揺(フーヤオ)」が稼働を始めました。
秒速約5メートル、わずか50秒で頂上へ。360度全面ガラス張りのキャビンは最大81人を収容し、先代の約3倍の輸送力を持ちます。
エレベーター2基にロープウェイとシャトルバスを組み合わせた結果、片道3時間超だった通学が約30分に縮まりました。地元メディアはこのシステムを「空のスクールバス」と呼んでいます。
「乗って初めて、
故郷がきれいだと気づいた」
このプロジェクトを手がけた宣威亜拓旅游開発の蔡雄会長は、自身も山育ちで危険な山道を歩いた経験があり、「安全が第一の動機だった」と語っています。
地元住民と児童の利用は無料。通学時間帯には専用レーンが設けられ、スタッフと警察が見守る体制が整えられています。約20人の児童が日常的にこのルートを使い、保護者が交代で付き添います。
一方で、このエレベーターは観光資源としても機能しています。最初の1基が開業して以来、累計100万人以上が訪れ、2基目の稼働で景区の1日あたり受入能力は約4,000人から15,000人に拡大しました。
生活インフラと観光が同じ装置で両立する——その設計の巧みさに目を引かれます。
視点が変わると、風景が変わる
10歳の女の子は国営メディアの取材にこう答えたそうです。「エレベーターに乗って初めて、故郷がこんなにきれいだと気づいた」。
日本でも過疎地域のスクールバス廃止や学校統廃合は身近な課題です。「インフラ=道路を敷くこと」という前提を疑ったとき、解法はまったく違う形をとりうる。
崖に張り付いた透明な箱は、子どもの足元の安全を守りながら、同時に「見えなかった景色」を手渡しました。移動手段が変わると、暮らしだけでなく、自分の住む場所の見え方まで変わる。そんなことを、標高差500メートルの峡谷が教えてくれます。






