汚染水が「戦略資源」に。米国の廃坑で始まったレアアース回収

閉鎖された炭鉱から流れ出す、赤みを帯びた水。重金属を含み、環境を汚す「負の遺産」として長年厄介者扱いされてきたその廃水が、いま戦略資源の供給源として注目されています。しかも、浄化と資源回収が同時に起きるというのだから、ちょっと話がうますぎないでしょうか。

赤い水の正体は
「宝の溶液」だった

米国アパラチア地域、とくにウェストバージニア州には、かつて石炭産業を支えた炭鉱が数多く残っています。閉鎖後も地下から湧き出す水は酸性鉱山排水と呼ばれ、鉄などの重金属が溶け込んで黄土色に染まり、周辺の河川や土壌を汚染してきました。

ところが約10年前、ウェストバージニア大学(WVU)の研究者たちが、この厄介な廃水にレアアース(希土類元素)が豊富に含まれていることを突き止めます。

レアアースとは、スマートフォンやEV(電気自動車)、風力タービンの磁石に欠かせない鉱物資源のこと。ドローンや戦闘機にも使われ、現代のハイテク産業と安全保障の両面で不可欠な存在です。

そして現在、その生産と精錬の大部分を中国が握っている——これが、赤い水に世界が注目する理由です。

「掘る」のではなく
「流れ出すもの」から取る

米国内で稼働するレアアース鉱山は、カリフォルニア州マウンテンパスにたった1カ所。しかもそこで採れるのは主に「軽い」レアアースで、EVや風力発電の磁石に特に重要な「重い」レアアースは、ほぼ海外頼みでした。

WVUが公的資金を得て進めるパイロットプロジェクトは、この構図を変えようとしています。ウェストバージニア州マウントストームの閉鎖炭鉱で廃水を回収し、丘の中腹に設けた小規模プラントで3段階の処理を行い、汚染物質を除去しながらレアアースを濃縮抽出する仕組みです。

同プロジェクトのディレクター、ランス・リン氏は「Economic Times」の報道の中で「環境浄化と、価値ある副産物としてのレアアース回収。この操業で2つの目的を同時に達成する」と語っています。

処理後に自然へ放流される水は、赤みが消えてほぼターコイズ色になるといいます。汚染の象徴だった色が、文字どおり書き換えられる瞬間です。

「負の遺産」を読み替える視座は
日本にも届く

現時点でマウントストーム施設の生産能力は年間約4トン。米国全体の需要からすればごくわずかです。ただしWVUのエンジニア、デイヴィッド・ホフマン氏は、複数サイトへ展開して年間300トン規模に拡大すれば、テルビウムやジスプロシウムといった重いレアアースの世界需要の7〜8%を賄えると試算しています。

商業的な実現可能性には慎重な見方もあります。レアアース精錬の専門家トミー・ラロシェル氏はAFPの取材に対し、「防衛産業への最低限の供給は確保できる」としつつ、「政治的意志と資金が揃えば短期的に実現可能」と条件付きで評価しました。

WVU副学長のマーク・ガヴィン氏は「我々が解決策のすべてではないが、解決策の一部であることは間違いない」と述べています。

「新たに掘る」のではなく「すでに流れ出しているものから回収する」。この発想の転換は、中国依存というリスクを日本も共有するレアアース問題だけでなく、廃炉や廃鉱、空き家といった国内の「負の遺産」をどう読み替えるかという問いにも、静かにつながっているのではないでしょうか。

Top image: © iStock.com / urbazon
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。