ボクシングの書き言葉「拳譜」。パンチもフェイントも“記譜”する
将棋には棋譜があり、音楽には楽譜がある。では、ボクシングは?
試合の攻防を正確に書き残す共通言語が、実はこのスポーツにはまだ存在しません。その空白を埋めようとするプロジェクトが、2026年度の文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業に採択されました。
「書き言葉がない」という
ボクシングの盲点

プロジェクト名は「SHEET BOXING:ボクシングには書き言葉がない」。合名会社ウェブサービスは残らないの代表社員ハナフサタケツグ氏が考案した「拳譜(けんぷ)」という記号体系が、その中核です。
拳譜は、音楽の五線譜をボクシングに転用する仕組み。パンチ、ディフェンス、ステップ、戦術といった動きを、楽譜のように紙の上に書き表します。
ボクシングの世界には、ジャブを「1」、クロスを「2」と呼ぶ番号体系がもともと存在します。しかし番号の羅列だけでは、パンチとパンチの間にある「間合い」や「リズム」、あえて打たない「フェイント」を記述できません。
五線譜に載せることで、音符の長さが動作の持続時間に、休符が間合いやフェイントに対応する。つまり、試合の攻防が将棋の棋譜のように読み解ける対象になるのです。
「観る」から「読む」へ、
観戦の解像度が変わる
この発想で面白いのは、拳譜が競技者だけのツールではないところです。
採択を受けて発表された全国ワークショップツアーでは、ボクシングの競技経験がなくても参加できます。観戦が好きなだけのファンでも、アートに関心がある人でもOK。
3人以上集まれば、考案者のハナフサ氏本人が全国どこへでも出向いて、無料で60分のワークショップを開いてくれるという仕組みです。
全4回の構成で、第1回は拳譜の読み書きの基本。回を重ねるごとに試合分析や戦略の表現へと進み、最終回のテーマは「紙とペンでするシャドー」。身体を動かさずに戦術を組み立てる行為を「シャドーボクシング」と呼ぶ、その言葉の響きにも知的な遊び心が感じられます。
好きなものを「読み書き」する
新しいリテラシー
私たちは好きなものをもっと深く知りたいとき、データを調べたり、解説動画を観たりします。でも「自分の手で書いてみる」という回路は、スポーツ観戦にはほとんどありませんでした。
拳譜は、その回路をつくろうとしています。好きな選手の試合を楽譜のように書き起こし、リズムの癖や戦術の構造を目で追う。それは推しの魅力を言語化する行為にも似ています。
「文字があるから文明は発達する」。プレスリリースに記されたこの一文は大げさに聞こえるかもしれません。けれど、書き言葉を持たなかったスポーツに記号を与えるという試みは、観る側の想像力をひとつ拡張してくれるのではないでしょうか。
ワークショップツアーは2026年10月1日から2027年1月31日まで。殴り合いの向こうに楽譜が見える体験、ちょっと気になりませんか。
ワークショップ概要
【実施期間】2026年10月1日〜2027年1月31日
【所要時間】1回60分程度
【費用】無料(会場費は応募者負担)
【応募条件】屋根と電源のある場所を用意できること/告知に協力できること(最低3人から実施)/ボクシングまたはアートに関心があること(競技経験不要・法人も可)
【応募】Googleフォーム
【公式サイト】SHEET BOXING






