霧の中に「空気を浄化する細菌」発見。大気汚染物質を分解する仕組み【最新研究】

霧に包まれたとき、私たちが吸い込んでいるのは「ただの水蒸気」ではないかもしれません。

アリゾナ州立大学の研究チームが、霧の水滴の中で細菌が生きて増殖し、大気汚染物質を分解していることを突き止めました。学術誌「mBio」に2026年5月に掲載されたこの研究は、霧という身近な気象現象の意味を根本から書き換えるものです。

指ぬき1杯の霧水に、
約1000万個の細菌が棲んでいた

研究を率いたのは、当時博士課程の学生だったThi Thuong Thuong Cao氏。ペンシルベニア州サスケハナ川付近で発生する放射霧を対象に、夜明け前からフィールドに入り、ファンで霧の空気を吸い込んで水滴を集めるという地道な作業を繰り返しました。1回の採取に5時間以上かかることもあったといいます。

その結果、細菌を含む水滴は全体の1%にも満たないものの、すべての水滴を合わせると細菌の濃度は海洋と同等であることがわかりました。指ぬき1杯分、およそ10mLの霧水に約1000万個。髪の毛の太さの10分の1から半分ほどしかない微小な水の粒が、目に見えない生態系を宿していたのです。

共著者でASU Biodesign Center for Fundamental and Applied Microbiomicsのディレクターでもあるレジェンツ教授のFerran Garcia-Pichel氏は、「もし細菌が増殖しているなら、水滴は生息地だ。それはマインドセットの転換だ」と語っています。

有害物質を「食べる」細菌、
その自己防衛が空気を浄化する

特に注目されたのが、メチロバクテリアと呼ばれる細菌グループです。霧が発生する前の乾いた空気と比べて、霧の発生直後にはこの細菌の数が増加していました。つまり霧そのものが、彼らの個体数を一時的に押し上げていたのです。

メチロバクテリアが栄養源にしているのは、ホルムアルデヒド。オゾンスモッグの原因にもなる、人体に有害な大気汚染物質です。

顕微鏡の下で、Cao氏は細菌が大きくなり分裂していく様子を確認しました。さらに興味深いのは、細菌がホルムアルデヒドを単に食べているだけではなかったこと。高濃度のホルムアルデヒドは細菌自身にとっても毒であるため、自己防衛として二酸化炭素に分解し、周囲の濃度を下げていたのです。

Garcia-Pichel氏はこれを「微生物と人間の双方にとってウィンウィンだ」と表現しています。

霧を「収穫」すると、
空気の小さな味方も失われる

この発見は、私たちの暮らしにも思わぬ問いを投げかけます。

世界には霧を集めて飲料水にするコミュニティがあり、「清潔で安全」として販売されることもあります。しかし今回の研究は、霧水にも浄化処理が必要であることを示唆しています。

そしてもうひとつ。霧を収穫するということは、大気を浄化してくれている微生物ごと取り除くことでもあるのです。Garcia-Pichel氏は「大きな影響があるかはわからないが、考慮すべきだ」と慎重に語りました。

日本は霧の多い国です。釧路の海霧、箱根の山霧、京都盆地の朝霧。次にその白い世界に包まれたとき、一滴一滴の中で細菌たちが静かに空気をきれいにしていると想像してみてください。見えないものが見えるようになるだけで、いつもの風景は少し違って映るはずです。

Top image: © Stock.com / Denis Poltoradnev
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