「一生、献血できない」が変わる。プラセンタ注射と欧州滞在歴の新ルール

かつてイギリスに住んでいた。美容クリニックでプラセンタ注射を受けたことがある。それだけで、献血の受付で断られ続けてきた人たちがいます。しかも、その期間は最長でおよそ30年。2026年10月1日、その景色がようやく変わります。

「過去の選択」が社会参加を
奪い続けた27年間

ことの始まりは1990年代にさかのぼります。イギリスを中心に広がった牛海綿状脳症、いわゆるBSE。BSEに由来する異常プリオンが人に伝わると、脳の神経を侵す変異型クロイツフェルト・ヤコブ病を引き起こす可能性があるとされました。

輸血を介した感染を防ぐため、日本では1999年から、1980年から1996年の間にイギリスに一定期間滞在した人の献血を制限。2005年に国内で初めて患者が確認されると、基準はさらに厳しくなりました。

2006年にはプラセンタ注射剤も対象に加わります。国内で承認されている「ラエンネック」や「メルスモン」といったヒト胎盤由来の注射剤を一度でも使ったことがあれば、期間の定めなく献血ができなくなったのです。

留学、駐在、美容施術。いずれも個人の自由な選択です。けれどその選択が、献血という社会貢献の入り口を、本人が気づかないうちに閉ざしていました。

「永久に不可」から
「待てば戻れる」への転換

日本赤十字社が2026年9月14日に発表した新基準では、2つの大きな変更が行われます。

まず、欧州などの滞在歴に基づく献血制限は完全に撤廃されます。厚生労働省の調査会が日本独自の数理モデルでリスクを評価した結果、制限を撤廃しても患者が増えることはないと結論づけたためです。国内では2005年の1例以降、新たな患者は報告されていません。

プラセンタ注射剤については、完全撤廃ではなく基準の変更です。最終使用日から3か月が経過すれば、献血が可能になります。「一生不可」が「3か月待てば戻れる」に変わったわけです。

アメリカやオーストラリアでは2022年以降、同様の制限撤廃がすでに進んでいました。日本の今回の判断は、国際的な流れにも沿ったものといえます。

制度が「更新される」ことの意味

予防のために厳しい基準を設けること自体は、合理的な判断でした。未知の脅威に対して安全側に倒すのは、公衆衛生の原則です。

ただ、科学的な知見が積み重なっても制度がそのままであれば、かつての予防措置は、いつしか当事者にとっての永久的な排除に変わってしまいます。

今回の変更が示しているのは、制度は一度つくったら終わりではなく、知見の更新とともに見直されるべきだという姿勢ではないでしょうか。

美容クリニックでプラセンタ注射を受けたことがある方、あるいは若い頃にヨーロッパで暮らした経験がある方。もし「自分は献血できない」と思い込んでいたなら、10月以降、もう一度確認してみる価値があるかもしれません。

なお、海外からの帰国日当日から4週間以内の献血制限など、他の感染症対策に基づく基準は引き続き適用されます。最終的な可否は、当日の問診と医師の判断によります。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。