錆びた機械に残っていた「地元の味」。柳川せんべい復活プロジェクト始動

味の継承といえば、職人の手、秘伝のレシピ、あるいは暖簾を受け継ぐ誰かの存在を思い浮かべます。でも福岡県柳川市で始まったプロジェクトでは、味を記憶しているのは人ではなく、倉庫に眠っていた機械一台でした。

「カチャン、カチャン」が
消えた掘割

柳川名物「川下りせんべい」の看板を掲げたはりまや本舗の元店舗前で記念撮影する店主とスタッフ
© 株式会社石橋鉄工所

柳川といえば、水路をめぐる川下り。その観光の中心地にかつて「はりまや本舗」という店がありました。

掘割を進む舟の上から聞こえてくる、せんべいを焼く機械の「カチャン、カチャン」という音。焼きたてを手渡される観光客の笑顔。地元の人にとっては、あまりにも当たり前の日常だったそうです。

しかし、はりまや本舗は閉店。建物も取り壊され、あの音も味も柳川の風景から消えました。

残ったのは、市内の薄暗い倉庫にしまわれた回転式の焼き機械だけ。設計図はなく、この機械をつくったメーカーもすでに存在しません。

せんべい機械の修復依頼を受け、ものづくりネットワーク「CC-NET」の中島会長が倉庫でその機械を見つめ、「機械が泣いている」と漏らしたことが、プロジェクトの出発点になりました。

37社が技術を持ち寄る
「復元」という選択

屋外で数人がかりで錆びついた大きな回転式せんべい焼き機械を運び出す様子
© 株式会社石橋鉄工所
錆びたシャッターの前で作業員がせんべい機械が保管されていた倉庫の扉を開けようとしている様子
© 株式会社石橋鉄工所

CC-NETは、福岡県筑後地域の製造業37社が参加するネットワークです。加工の種類や得意分野がそれぞれ異なるため、互いに競合しにくい。ふだんから設備を貸し借りしたり、受注を融通し合ったりする関係を築いてきました。

この機械の再生は、単なる修理ではありません。図面が存在しないため、現物の部品を一つひとつ解析して設計図を起こし直す、いわばリバースエンジニアリングからのスタートです。

特殊な鋳造部品の再設計、現代の安全基準に合わせた動力の再構築。一社では到底カバーできない工程を、得意分野の異なる仲間たちが分担します。

工程表の最終項目は
「組立」ではなく「味」

このプロジェクトで最も印象的なのは、完成の定義です。

2027年3月に予定されている工程の最終項目は、部品の組み立てでも動作確認でもなく、「火入れ・味の再現」。つまり、機械が正しく動くかどうかではなく、あの味が戻ったかどうかが検収基準なのです。

産業機械の復元なのに、ゴールが官能評価。この矛盾のような設計にこそ、プロジェクトの本質が表れています。機械は単なる道具ではなく、職人の手加減や火の通し方を物理的に記憶した「味の記録媒体」だったということです。

石橋鉄工所の石橋輝喜代表は「柳川の日常にあったあの音、あの味を、もう一度この土地に戻したい」と語っています。

誰にでも、なくなって初めて気づく地元の味があるのではないでしょうか。それを取り戻す手がかりが、人でもレシピでもなく、錆びた機械一台だったという事実が、ものづくりの街の底力を静かに物語っています。

クラウドファンディングは社会貢献型プラットフォーム「For Good」にて実施中です。

せんべい機械復活プロジェクト

【開催地】福岡県柳川市
【目標金額】ファーストゴール300万円(機械復活)/セカンドゴール500万円(まり型ベビーカステラ焼き機開発)/サードゴール800万円(復活祭開催・柳川駅前出店準備)
【主なリターン】復活せんべい10枚セット(5,000円)/工場見学&キーホルダー作り体験(30,000円)/CC-NET福袋セット(50,000円)ほか
【支援ページ】For Good プロジェクトページ

Top image: © 株式会社石橋鉄工所
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。