番前に、何度でも失敗できる。医療教育を変える“出血する人体模型”

外科医の腕は、どこで磨かれるのか。教科書でも、画面の中でもない。けれど「本番」で練習するわけにもいかない——医療教育にはずっと、そんな構造的な矛盾がありました。

その矛盾に正面から挑んだプロジェクトが、最高賞を獲りました。

メスを入れると「出血」する模型が
グランプリに選ばれた理由

3D Clone Modelの頭部模型を持つ開発者と、開発に関わったミライズウェルメディカルグループ・日南・メディデントのメンバー
3社の共創チームと3D Clone Model(左から猿渡義市氏、富田由美子、富田大介) 写真提供:Forbes JAPAN

2026年8月26日、ホテルオークラ東京で開催された「Forbes JAPAN Xtrepreneur AWARD 2026」(主催:Forbes JAPAN、後援:経済産業省)。全部門の受賞プロジェクトの中からグランプリに輝いたのは、「3D Clone Model」でした。あわせてメドテック賞も受賞し、2冠を達成しています。

3D Clone Modelは、患者一人ひとりのCTやMRI、口の中や顔のスキャンデータを統合して、歯・骨・歯肉・舌・皮膚といった体の構造を、見た目だけでなく触った感触や内部のつくりまで実物そっくりに再現する医療教育プラットフォームです。

最大の特徴は、メスを入れると出血すること。切開や剥離といった手技を、実際の手術さながらの緊張感のなかで何度でもやり直せます。

開発を手がけたのは、矯正歯科や顎の外科治療を専門とするミライズウェルメディカルグループと、自動車や工業製品の精密な試作品づくりで知られる株式会社日南、そしてメドテック事業を展開する株式会社メディデントの3社。医療の臨床知見と、異分野のものづくり技術が掛け合わさって生まれました。

「患者の安全」と「教育の機会」は
なぜトレードオフだったのか

そもそも、なぜこんなものが必要だったのでしょうか。

医師が手術の腕を上げるには、実際の人体に近い環境で繰り返し練習するしかありません。しかし従来の方法には限界がありました。

ご遺体を用いた訓練は倫理面や実施機会に制約があり、動物モデルも同様です。一般的な模型やシミュレーターでは、生きた組織の柔らかさや出血、体温までは再現できません。

結果として、若手医師は指導医の監督のもと、実際の患者さんの手術を通じて少しずつ経験を積むしかなかった。つまり「患者さんの安全を守ること」と「医師の教育機会を確保すること」は、長い間トレードオフの関係にあったのです。

MEDiDENT代表の富田大介氏は「医療者の手は画面の中では育たない」と語っています。何度でも切開し、何度でもやり直せる「失敗できる患者さん」をつくれないか——すべてはその問いから始まったそうです。

「失敗していい」が
医療の質を上げるという逆説

「失敗できる患者」という言葉は、一見すると不穏に聞こえるかもしれません。でも考えてみれば、私たちは料理も運転も、失敗を重ねて上手くなったはずです。

医療だけが、その当たり前の学びのプロセスを許されてこなかった。

日南の取締役・猿渡義市氏は「正直、そんなものが本当につくれるのかと思った。同時にものづくりのプロフェッショナル魂に火がついた」と振り返ります。

すでに米スタンフォード大学をはじめ海外の大学や医療機関からも関心が寄せられているとのこと。コア技術は現在特許出願中で、今後は日本発の医療教育プラットフォームとして世界展開を目指すといいます。

「失敗していい場所」があるからこそ、本番で失敗しない医師が育つ。この逆説が、いつか私たちが手術台に横たわるときの安心につながるのかもしれません。

Top image: © 株式会社メディデント
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