誰もいない巣で幼虫が「夜泣き」。岡山大がスズメバチの定説覆す

危険な毒針を持ち、凶暴な昆虫の代表格として恐れられるオオスズメバチ。

その幼虫たちが、成虫のいない暗闇の中でひたすら巣の壁を削り、音を鳴らし続けている姿を想像できるでしょうか。2026年9月、岡山大学と神戸大学の研究グループが、従来の定説を覆すユニークな生態を発表しました。

餌ねだり説の矛盾を突き止めた
夜の観察に

スズメバチの終齢幼虫は、大顎を巣盤の壁に擦りつけてガリガリという音を立てます。これまでの昆虫学では、この音は巣に戻ってきた働きバチに対して餌をねだる合図(ベギング)だと考えられてきました。幼虫が空腹を訴えるサインだと信じられていたのです。

ところが、岡山大学の藤岡春菜助教と神戸大学の佐賀達矢助教による共同研究グループが観察を進めたところ、長年の定説を覆す事実が判明しました。

周囲に成虫がまったくいない孤立した環境でも、夜間であっても、幼虫たちは絶え間なく音を鳴らし続けていたのです。餌をくれる成虫がいない状況で音を出し続けるという事実は、この行動が単なる空腹のアピールではない可能性を示しました。

研究のきっかけは、佐賀助教の研究室で議論をしていた際、室内に置かれたオオスズメバチの巣からガリガリと音が鳴り止まなかったことでした。

誰もいない暗闇で、彼らはなぜ音を出し続けるのか。調査によって、この音出しは成虫への要求にとどまらず、幼虫同士の同調や未知の情報伝達を担っている可能性が科学的に示されました。

恐怖の対象から、
未知の対話を持つ隣人へ

国際学術誌『Behavioural Processes』に掲載された今回の論文は、私たちが当たり前だと思い込んでいた昆虫の振る舞いに、まだ解き明かされていない対話の形があることを示しています。

誰もいない夜の巣の中で響く音は、幼虫たちが社会的なネットワークを維持するための大切な合図なのかもしれません。

人間にとってオオスズメバチは、刺傷事故の危険がつきまとう、駆除の対象になりがちな存在です。しかし、誰も見ていない夜の巣の中で、小さな顎をひたすら動かし続ける幼虫の姿を知ると、恐怖とは少し違う感情が湧いてくるのではないでしょうか。

私たちが害虫というひとつの見方で捉えてしまう生き物たちも、人間には理解しきれない独自の生態を築いています。身近な自然の奥深さにそっと耳を澄ませてみると、いつもの世界が少し違って見えてくるはずです。

Top image: © iStock.com / Victor Golmer
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。