一流建築家が明かす、住む人が幸せになる家のつくり方
私は建築士として、さまざまな方が幸せに住める家をつくるお手伝いをさせていただいています。
自著『住む人が幸せになる家のつくり方』から、特に成功した家づくりの依頼主の方のエピソードを紹介します。
01.
住環境の変化で
叶えられた、大きな夢
Cさんは、私の長い付き合いの友人です。当時、彼の住まいはにぎやかというか、わりとごちゃごちゃとした地域にありました。本人は「昔からこういう場所に住んでいるから慣れている」と気にしていないようでしたが、私は「こういう場所でクリエイティブになることは難しいんじゃないの?」とよく言っていたのです。
すると、そのうちに彼も、自分の人生をクリエイティブにしながら、わくわくさせてくれる場所とはどこかと考えるようになったらしいのです。その上で出てきた結論が、「自分にとってのクリエイティブな場所は鎌倉だ」というもの。そこで彼は、それまで縁もゆかりもなかった鎌倉に賃貸の家を見つけて、引っ越してしまいました。
それからの彼はどうなったのかというと、大学の准教授になり、本も書くようになりました。書いた本の売れ行きもよいため、今ではベストセラー作家の仲間入りをしています。
鎌倉は昔から文筆家が多く住む場所。クリエイティビティ、品のよさ、ステイタスなど、そういった印象をパッケージしたような土地柄が、おそらく彼の目指すクリエイティビティにぴったり合っていたのでしょう。先行投資的にそこに住むことで、そこに合う自分になっていくイメージを手に入れているのです。
住む環境というのは、それだけ夢を後押しする力があるのだと実感しました。
02.
30年後を考えた二世帯住宅が
コミュニティの中心に
地方の出身のDさんは、仕事の都合でしばらく東京で暮らしていました。しかし、その間にも彼はずっと「生まれ故郷に戻るタイミングで、自分が生まれ育った実家の土地に家を建て替えて二世帯で暮らしたい。住むんだったら、自分はここしかない」と言っていました。
ただ、私は設計の打ち合わせをする中で、彼にシビアな現実を伝えなければいけませんでした。
「30年たったら、ご両親はもうこの世にはいない可能性が高い。しかし二世帯住宅は、30年、40年、50年という時間が経過した後もそこに建ち続けます。30年後どういう生活がしたいか、ぜひ夫婦で話し合ってきてもらいたい」と彼に頼んでみました。
その結果、帰って来たのは、「妻が栄養士で料理が上手だから、30年後には自分たち夫婦は親が住んでいた場所に引っ越し、母屋は小さなカフェにして地域の人に解放したい」という言葉。そこで、30年後にカフェとして解放できることもセットにして作ったのが、今の家のデザインでした。
Dさんのお子さんたちは、今、幼稚園に通っています。面白いことに、夕方になると毎日のように、近所に住む同じ幼稚園のお母さんとお子さんたちがこの家に遊びに来て、まるで児童館のようになっていると言います。そういうコミュニティの場は、子供たちにとって素晴らしい環境だと思います。
「カフェ」という言葉はひとつの象徴なのかもしれませんが、そんな希望を下敷きに意識するだけでも、気持ちが違ってきます。可能性を内包することが大切なのです。
03.
家族と一緒に
成長していく家
ちょうど2年前、たまたま畑ができる土地が横についた宅地を見つけられたのが、Fさんご一家でした。
この宅地から2kmほど先には、立派に整備された住宅団地もありましたが、家格が高すぎるということで、新たに土地を探していました。そこで住宅団地から坂を下ると反対側にある、ごく小さな一角を見ると、そこには川が流れていました。その脇が畑つきの宅地になっていて、土地の値段は住宅団地の半分以下で売り出していました。
駅まで歩く距離はほぼ同じで、市内中心地までも車で25分から30分で出られる場所。ご主人の通勤も片道30分くらいですみ、帰宅してからも畑作業をしたり、子供と戯れて遊べたりという、仕事と家庭のバランスを考えても最適な土地でした。
奥様はハーブを育て、将来的にはハーブを使ったお茶や、趣味のパンケーキを提供するサロンを開きたいそうです。キッチンのすぐ横に作ったワークスペースのカウンターやダイニングテーブルでお子さんは勉強をしています。2階には将来子供たちが使うワークスペースも設置し、余裕のある空間作りができています。これからのライフスタイル、仕事と家庭と自然と触れ合うことを、深く考えながら建てた家がFさんのお宅です。
お子さんは女の子2人ですが、ご両親の理想通り、泥だらけになって、のびのび遊んでいるそうです。素敵なご家族だと思います。
04.
島に本宅、街に別荘
というライフスタイル
ある島に本宅を構えるGさん一家は、広島市内でセカンドハウスを建てるための土地を探していました。ご主人は野球が好きで、マツダスタジアムにほど近い場所がご希望でした。島で暮らすGさんにとって、歩いて野球観戦に行けるなんで夢のような環境です。
しかしそれが可能なエリアでは、なかなかこれといった土地に出合うことができず、私は「条件を一度外してみませんか?」と提案。そうして見つけたのが現在の土地だったのです。ご主人は当初乗り気ではありませんでした。しかし、私が敷地を見に行ったところ、有効に活用できる土地であることがわかりました。さまざまな制限を全部逆手に取って家ができるという提案を出すと、Gさんは「八納さん、これいいじゃないですか」と納得してくれました。
都市部に住む人とは逆の発想ですが、高齢になってから島で暮らすのは大変なこともあります。健康面のサポートや生活の利便性を考え、現役のうちに街中の環境を手に入れておいて週末は都市生活を楽しみ、ゆくゆくは現在のセカンドハウスに住みながら、気が向いたら島の家と行き来をするというのは、賢い先行投資ではないでしょうか。
『住む人が幸せになる家のつくり方』
コンテンツ提供元:サンマーク出版
株式会社川本建築設計事務所代表取締役。1級建築士。広島と東京を拠点に「快適で幸せな建築空間づくり」を専門にする建築家。設計活動を行う傍ら、全国的に講演活動や執筆活動を行っている。