「安さ」でも「トレンド」でもない。現役慶応大学院生モデルが語る、洋服の新しい選び方
現役慶應大学院生モデルであり、エシカル・ファッションの情報発信、途上国支援と、モデルの他にも活動の場を広げている鎌田安里紗さん。2015年2月からエシカル・ファッションブランドの『INHEELS(インヒールズ)』とコラボレーション企画を行っています。
エシカル・ファッションでありながら「who said ETHICAL is not SEXY?」と挑発的な姿勢でものづくりを行うINHEELSとのコラボレーションについて、鎌田安里紗さんとINHEELS共同代表の岡田有加さんにインタビュー。
コラボレーションでの物作りの方法や伝えたいことを聞いていきます。
直球勝負ではなく、
感性に訴える方法で仕掛けたい
————エシカル・ファッションについてのスタンスが非常に似ているお二人ですが、コラボレーションはどんな風に行っているのですか?
岡田 たとえば前回、バックを作った時も、「かわいいデザインをお願いします」とお願いしてペロッとデザインを提出してもらったわけではありません。
ありちゃんがファンの子たちに、どういう生き方を伝えていきたいか、一人の人間としてどういう生き方を伝えていきたいかというところからしっかりブレストをして、バックというプロダクトに落とし込むにはどうしたらいいのだろうと考えました。
そうやって作ったのがスペル(呪文)バッグ。自分に呪文をかけてくれるバッグです。
バッグには「FORGET ANYTHING? 忘れ物は、ない?」というデザインの下に、お財布、鍵、リップなど、みんながいつも持ち運ぶものをチェック項目として並べ、それに加えて、スマイル、自信、やさしさ、ラブ、オリジナリティという言葉も添えました。
自分が好きな自分になるにはどうしたらいいのか、と考えてできたデザインです。
鎌田 私は高校2年生からモデルをやっているのですが、同世代や年下のファンの子がいろんな相談をお手紙やSNSなどで送ってくれるんです。
それを読んでいると自己否定的な子がすごく多くって。それはなぜなんだろうと疑問だったのですが、学部生の時に考えていたのが、「自分の内面と向き合う時間をとらないと、外からの情報や物質的なものにとらわれて、本来の自分が大切にしたい考え方や気持ちと日々の生活が噛み合わなくなり、悩みが増えてしまう」ということ。
その状態から、日常のなかでも精神的な部分に目を向けられるようにと考えて、バックのデザインに仕掛けました。
そうすることで、物質的な充実感で心を満たすのではなく、より根本的で本質的な充実感を求められるようになるのではないかと。
————エシカル・ファッションのバッグだと、もっとメッセージ性の強い「30%エシカル」「エシカルをまとっています」といったものになりがちだと思うのですが、内面に向き合うバッグになったんですね。
岡田 コラボバッグもそうだし、今度一緒にやるコラボエッセイ集もそうですが、直球じゃない表現のほうがおもしろいと思っているんです。
私たちは、もっと斜に構えた感じ。バックグラウンドに流れているのは、それぞれのスタイルで、物質的じゃないもの、持続可能のものを少しずつ意識できるようにしたいという想いです。
鎌田 エシカル・ファッションのことを発信するときに、「こっちのほうが正しいからそうしなさい」というのは全然ステキじゃなくて、それでは取り入れたいと思われないだろうなと感じるんです。
「こっちのほうがかっこいいよ」「気持ちいいよ」「満たされるよ」みたいな感性の部分を伝えていかないと。
岡田 INHEELSが使っているのが「理性と感性の交差点」という言葉です。
エシカル・ファッションのブランドが発信する時、「ファッション業界の裏側では環境破壊が……」とか「バングラデシュの縫製工場では労働者が1日14時間働いていて……」などと理性に訴えかける方法をとりがちです。
でも、エシカル・ファッションもファッションなのだから、かわいくなくちゃいけないし、着たら今よりも魅力的になると説得しなくちゃいけない。
それは感性的な部分ですよね。理性と感性の交わるところに、うまくはまっていけたら、と思っているんです。
鎌田 私がこういう活動をして発信をしていると、ファンの子が「フェアトレードの本を読みました」「エシカル・ファッションについてレポートを書きました」と報告してくれることがあります。
とっても嬉しい一方で「勉強の対象として届いているんだな」と感じることも。勉強の対象だけになってしまうと、リアルな生活はあまり変わらないし、勉強した内容と生活の乖離に苦しんで、悩んで疲れて、けっきょくエシカル・ファッションから離れていってしまうこともあるんですよね。
そういった葛藤と向き合うことも大切ですが、その前に「気持ちいから好き」「かわいいから好き」と言われるような、身体感覚を大切にした物や情報を届けたいと思っています。
岡田 エッセイ集もなるべく感覚的なものを持てるように、と考えて企画しました。
写真をたくさん入れて写真集のように見えるようにし、美しいポエティックでアーティスティックな表現を入れて。
ありちゃんのアカデミックな話も感性に訴えかけるような形で表現しています。
数年着られる、
スタイルのある服を作りたい
————2016年秋冬のファッションのコラボに関してはどんなことを考えましたか?
鎌田 私が思う「いい服」というのは、「今すぐに着たい」と「長く大切にしたい」を両立しているもの。
それから、トレンドに合わせないということを強く意識しました。トレンドに合わせてしまうと、1年後には着られなくなってしまう可能性が高いのですよね。
人それぞれ、取り入れたいトレンドや着たい服がいろいろとあるだろうから、それに合わせて着られるようなものにしたいと思いました。
若いうちは「いい服・ベーシックな服を買って長く着る」という発想を持ちにくいですが、若い子でも数年着られる服のデザインというのは確実にあります。
ここ5、6年で自分が買って毎年活躍してくれる服や、トレンドに敏感で頻繁に服を買う友だちが数年着続けている服を参考に、「クラシックすぎずトレンドすぎない」ラインを探りながらデザインを考えています。
岡田 トレンドにぴったり合ったものにしてしまうと長く着てもらえないですからね。
ただ、本当にベーシックでクラシックすぎるものになってしまうと、数ある大きなブランドさんに価格的にも勝てないし、私たちがやっていく必要はありません。
トレンドではないスタイルを貫いていくのが大切だなと思っています。
鎌田 トレンドを否定しているわけではないんですよ。トレンドから刺激を受けて、自分なりに取り入れていくのはOK。
ただ、「流行ってるし安いから」という理由だけで服を買うというのが少しでもなくなるといいなと思うんです。
「安さ」と「トレンド」ではない価値基準を持って服を選ぶ、その最初の一歩になるような服作りができればいいなと思います。
コラボレーションで目指すもの
————このコラボレーションのゴールは何でしょうか。
岡田 エシカル・ファッションのなかに、とにかくカッコいい人たちが自然に集まるブランドが生まれたら、もっと多くの人が飛び込んできてくれると思うので、そういった存在を目指したいですね。
ありちゃんのおかげで、INHEELS単体ではリーチできなかった層の人に一気に扉を開くことができました。まずは第一歩が踏み出せたと思います。
鎌田 その現象はキープしたいですね。
INHEELSは作り込んだコンセプトを、直球ではなく、きれいなカーブの変化球で感性に訴えることができるブランド。
コラボをすることで、今まで全くエシカル・ファッションを知らなかった人たちが気軽に入れる入り口を、作っていきたいですね。
コンテンツ提供元:QREATORE AGENT