相手を心地よくするコミュニケーション「7つのヒント」
私はかつて25年もの間、全日空でCAの仕事に就いていました。国内線、国際線のチーフパーサーとして働き、そのうちの15年間は、天皇皇后両陛下、英国元首相マーガレット・サッチャーさんをはじめとする、各国元首のVIP特別機を担当させていただきました。そんな経験から培い、実践してきた、相手を気持よくするコミュニケーションのヒントをご紹介しましょう。
01.
毎朝、初対面のつもりで
挨拶をする
空の旅を快適に過ごしていただきたい、思い出に残していただきたい。そう考えて、精一杯のおもてなしをさせていただく中で、お客様と交わす短い言葉。その会話には、毎回変化があり、予測がつかない面白さがありました。まさにCAにとっては、毎日が一期一会であり、それがCAという仕事の醍醐味でもあります。
「デスクワークの私には関係ないわ」と思うでしょうか。
いいえ、大ありです。毎日顔を合わせる上司や同僚とも、実は毎日「初対面」なのです。上司は昨夜、奥さんと大げんかをして、今日は虫の居所が悪いかもしれません。同僚は今晩、何か内面に変化が起きる大きな気付きがあるかもしれません。
つまり、今日のその人は昨日のその人ではないし、今日のその人は明日のその人でもないということ。ですから、毎朝初対面のつもりで挨拶をし、その人のその日の温度感を探り、「今日はこの人との接着面積をどれくらいにしようか」「今日は必要以上に話しかけないほうがいいな」などと、的確なコミュニケーションを考える。これはとても大切なことです。
02.
言いやすい空気は
「ありがとう」で作る
CAはフライトが終わったあと、クルーで1つのデスクを囲んで集まります。そして、その日のフライトで小さな異変やアクシデントがあれば報告し、情報の共有と、今後へ向けた対策を確認し合うことになっています。そこで私が心がけていたことは、まずは「ありがとう」と言うこと。
たとえば「今日のフライトはどんな感じでしたか?」と、チーフパーサーの私が状況をクルーに質問すると、「今日は免税販売が好調だった」「トイレで喫煙があった」など、さまざまな報告が上がってきます。そこでどんな報告だとしても、私は最初に「ありがとう」と言葉を返すのです。
何を報告しても怒られない、むしろお礼を言われる。そういう職場なら、どんなことでも言いやすい雰囲気が生まれます。失敗をバカにしたり、責めたりする雰囲気があったとしたら、自分のミスを言いづらくなる。ちょっとしたミスを隠すことで、後々大きなトラブルに発展することもあるのです。
03.
人のウワサはできるだけ
耳に入れない
人が複数集まる環境では、どうしてもいろいろな噂話が飛び交います。「あの人、すごくできた人よ」といった良い噂もあれば、「あの人、何を考えているか分からないから、気をつけた方がいいわよ」というような、悪い噂も流れるのです。
チーフパーサーだった私のもとにも、根拠のない噂レベルを含めて、様々な情報が入ってきました。「今日のフライトであなたと一緒の◯◯さん、本当に使えない人よ。注意したほうがいいわよ」と、耳元で囁かれることもありました。
でも、実際一緒に仕事をしてみると、「そういう噂が立っても仕方がないな」と思える人も確かにいました。しかしその一方で、「なぜこの人がこんな評価なの?」と思える人もいたのです。ですから、私は人の噂はできるだけ耳に入れないようにしていましたし、情報が入ってきても鵜呑みにせず、フラットな視点でその人を見るようにしていました。
04.
先に弱点をさらして
お互いにフォローし合う
仕事を円滑に進めていくには、自分1人で頑張るよりも、スタッフの力を借りる方が得策です。そこで私が実践していたのは、先に「おなかを見せる」ことでした。
「実は私、こういうの苦手なの。お願いできる?」
と、自分の弱点を正直に言って、ストレートにお願いするのです。誰にでも、人の役に立ちたい、期待に応えたい、人から評価されたいという願望がありますから、人から頼りにされると悪い気はしません。
「弱点を見せて協力を得る」ことは、立場が上でも下でも関係ありません。ポジションが下でも、チームで仕事をすることになったら、「私には、どうも忘れっぽいところがあります。もちろん、自分でも気をつけているつもりですが、お含みおきください。よろしくお願いします」などと最初に言っておく。
そうすれば、他の人も「フォローしなくちゃ」と気をつけてくれますし、第一、自分から弱みを見せて頼ってくれる人は、上の人から見ると可愛い存在。可愛げがある人は、それだけで何かと目をかけてもらえ、協力も得やすいのです。完璧に1人でなんでもこなせる人などいません。でも、それでいいのです。
05.
相手のプライベートには
自分から踏み込まない
人と本音で付き合うとき、私が気をつけているのは、人との間に「節度を保つ」ということです。節度なくして、人との間に信頼関係を築くことは難しいでしょう。特に仕事の場では、その人のパーソナルな部分に触れることに、とても慎重になります。相手が自分から話さない限り、その人のプライベートには一切触れないようにしているのです。
1対1で話している時ならまだしも、大勢でいる時なら、なおさら。当たり障りのない、趣味の話などにとどめるのが安心です。それでも「地雷」を踏んでしまうことがありますから、大勢の前では、自分から積極的に質問するのを控え、人から振られた質問に答える程度にとどめるといいでしょう。
ただ、ある程度その人との関係性が出来てきて、本人が自分から「家族がね」とか「私の彼がね」などと語り出したら、話題にしてもいいという合図。「どんな家族構成なの?」「彼はどんな人?」といった質問をしていいでしょう。
06.
男性と女性で
使う言葉を変えてみる
脳科学の研究によると、男性と女性では、考え方や感じ方に違いがあると言われています。女性は目的がなくても会話を交わし、声に出して共感し合う脳を持ち、一方で男性は、なんでも理論的に考えて、目的を解決するための脳を持っているからだそうです。
おそらく、みなさんもこのようなことを感じた経験がおありではないでしょうか。私も、自身の恋愛経験などからこのことを悟っていたので、女性と男性とでは対応を変えていました。
07.
相手の人間性を否定する
言葉は使わない
忙しくて自分に余裕がなかったり、あまりにも初歩的なミスをされたりすると、「何やってるの!?」などと、キツい言葉を投げかけてしまうことがあります。
こちらも人間ですから、ある程度は仕方がないにしても、私は絶対に、相手の人間性を否定するような言葉だけは口にしないよう、気をつけています。
人間性を否定する言葉とは、例えば「いったいどういう性格なの!?」「どういう育ち方をしたの!?」「なんでいつもそうなの!?」「サイテーね」などといったものです。
後輩に注意するときには、タイミングを見て、事実だけを冷静に伝える。あとから思い出したように言われても、本人にしてみれば「え、何でしたっけ?」と思ってしまいます。ですから、できるだけ早いタイミングで、「あなたには少し注意散漫なところがあるけれど、それはお客様にはこれこれこういう風に、ご迷惑をお掛けすることになる。今日も、こんなふうにご迷惑をお掛けしていましたよ。だから、もう少し慎重になってね」というように、事例を挙げながら話をするのです。
『幸せな女の働き方』
コンテンツ提供元:里岡美津奈
人材育成コンサルタント。1986年全日本空輸株式会社(ANA)に入社。在職中、VIP特別機搭乗を務め、皇室、各国元首脳の接遇で高い評価を得る。2010年に退職。現在は人材育成コンサルタントとして、一般企業や病院でコミュニケーションスキルアップの指導にあたっている。