『婦人画報』7月号の表紙が7種類ある理由
旅行で金沢に出掛けたときに、ふらりと立ち寄った本屋。たまたま手に取った雑誌が金沢の工芸について特集をしていたから購入し、記事を参考にしながら旅行を続けた。
さて、旅行から帰ってすぐ、地元の街の本屋に出掛けたら、このあいだ旅先で見掛けた雑誌が……何故か同じ雑誌なのに表紙も中身も違う。一体なぜ?
実はこれ、女性月刊誌『婦人画報』が7月号で創刊111周年の記念企画として挑戦している、女性誌初の試みだ。
1つの雑誌で通常の東京版に加えて、札幌・金沢・福岡の都市と、北海道/東北、中部/関西、中国/四国/九州/沖縄の地域を表紙にしたエリア限定版が、合計で7つも同時に刊行しているのだ。
雑誌とともに、街を旅する
例えば『婦人画報』7月号の全国版では、東京・下町の職人にフォーカスを当てており、おなじく7月号の北海道/東北版と札幌版では北海道で話題のレストランを取材しているといった具合に、記事の内容も中部/関西版と金沢版、中部/四国/九州/沖縄版と福岡版、それぞれの4つのエリアによって異なる。
ただでさえ時間とコストが掛かる雑誌づくり。それにも関わらず7冊も同時に刊行できるのは、老舗ながら常に新しいことにチャレンジしている雑誌だからこそ為せる技と言えるだろう。
エリア限定版はそれぞれの地域限定で販売されるため、ネット書店やすべての版を取り扱う一部の大型店を除くと、本屋で手に入れるためにはその地域へ足を運ぶ必要がある。せっかくだから、旅行も兼ねて実際にその地方へ出掛けて手に入れたいところだ。
老舗雑誌が提案する
「新しい雑誌の在り方」
それにしても一体なぜ『婦人画報』はこんな試みをおこなったのだろう。
出版業界の低迷が叫ばれ、雑誌の廃刊が続くなか、出版社は生き残りをかけて様々な戦略を打ち出しつつある。
そのひとつのキーワードが「地方」との連携だ。
地方をテーマにマガジンハウスが運営するWebマガジン『Colocal』や、新潟に編集部そのものを移転した『自遊人』など、いま、地方に目を向けはじめた出版社も少なくない。
思えば雑誌全盛の時代、情報はすべて東京から発信されていた。ところがインターネットの発達によって誰でも積極的に発信できるようになったいま、地方には面白い文化がたくさん存在することが少しずつわかってきた。
『婦人画報』では早くから連載企画「この郷をゆく」で、地方のヒトやモノ、コトに焦点を当ててきたが、そこから更に一歩進めて「雑誌×地方」の連携を地域ごとに深めていくつもりではなかろうか。
長らく取材を続けてきた老舗雑誌だからこそ、地方の面白さに気づいた。そして、それを活かす形で、新しい雑誌の在り方を模索するーーその第一歩が『婦人画報』の7種類同時発売なのかもしれない。