デンマークの「不便」な生協に学ぶ、幸せな消費のカタチ
ドアを開けると、にぎやかな笑い声が飛び交っていた。僕は入る建物を間違えたのか…。
呆然としていると、「Hi」と握手を求められた。「あなた、見ない顔ね?私にできることは何かあるかしら?」
そこから取材は始まった。
すぐに声をかけてくれ、快く取材に応じてくれた、学生のアンさん
あなたのその今日の買い物、楽しかったですか?
日本の「生協」といえば、カタログから商品を選んで宅配してもらう、利便性がサービスが特長だ。青いプラスチック製の折りたたみ式コンテナと、白い発泡スチロールの箱がすぐに思い浮かぶ。「CO-OP」のラベルの貼られた商品やスーパーも身近な存在ではないだろうか。
KBH FF(Københavns Fødevarefællesskabs)というコペンハーゲンの生協も、日本のそれと同じようにもちろん会員制。100クローネ(約1,800円)の入会費さえ支払えば永久会員になれる。
しかし、商品から仕組み、組織のあり方まで日本とはまったく異なる。まず、この組合にはカタログはなく、配達もない。物理的には、独自に取引された商品と、その配給所が10カ所あるだけ。
注文は、1週間前に100クローネ単位でしなければならず、事前に商品を指定することはできない。注文の中身は、週に一度、水曜日の夕方に開く配給所に行ってからのお楽しみ。
一体どういうことなのだろうか?
売り手良し、買い手良し、
世間良し
この組合で扱うのは、野菜が主であり、そのすべてがオーガニック。そもそもデンマーク人はオーガニック思考が強く、ほとんどのスーパーマーケットでも取り扱われている。
だが、質と値段ともに近所のスーパーで買うよりもお得だという。一袋6〜8キログラムの旬な野菜が100クローネ(約1,800円)。デンマークの高い物価を考えるとかなり安い。
地元で作って地元で消費する、いわゆる自産自消がこの組合の方針だ。フェアトレードにもこだわる。一袋100クローネのうち96クローネが農家に支払われる。そして、二酸化炭素の排出を最小限に抑えた流通のもと、首都コペンハーゲンに直送される。
消費者は、WEBサイトを見ると、自分の買った商品がどこで、誰の手によって、どんな思いで作られたかを知ることができる。
消費者としていい商品を買えるだけでなく、組合員として地元の農家と適正な価格で取引し、持続可能な社会の構築に貢献する。「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」。この三方良しこそが、この組合の存在意義なのだ。
消費から生まれるコミュニティ
この組合のもう一つの特長は、組合自体が一つのコミュニティとして根付いているということ。まず、コペンハーゲンほどの小さな都市に配給所10カ所もあるため、本当にローカルな人たちが集まるプラットフォームになっているのだそう。
そして、組合員に課せられる「毎月3時間の業務」は、組合員のコミットメントを高める。業務内容にマニュアルやルールは一切なく、人それぞれの自己判断に委ねられている。「組織のどのレベルで活動するのか?」「組合に足りないのは何か?」「そこで自分に何ができるのか?」などに応じて、自分の役割を見つける。
各配給所の運営形態も一様ではなく、固定シフト制を導入するチームもあれば、リーダーを作らずに運営するチームもあるのだそう。たとえ義務であっても、自主性が尊重される業務であるため、毎月の楽しみになっているという。
「KBH FFにおいては、消費者は、組合員であるだけでなく、組合の所有者であり、仕事仲間でもある。たとえ仕事がなくても、配給所に商品を取りに行けば、知り合いの組合員がいて、お菓子を食べながら小話をする。時間があれば、カフェで一緒にコーヒーを。決して強固なコミュニティじゃないけど、毎週水曜日のこの時間がささやかな幸せなの」と、アンさんは最後にそう語ってくれた。
消費が社会貢献になり、組合は場として人々をゆるやかにつなげる。スーパーで行うファストな消費行動の対岸に、そんな買い物の選択肢があってはどうだろうか?
コペンハーゲンの生協は、僕たちに本当の豊かさの意味を問いかけている。
世界の片隅で異彩を放つ、デンマーク。この小さな北欧の国は、情報化がさらに進んだ未来の社会の一つのロールモデルになり得る。EPOCH MAKERSはその可能性を信じて、独自の視点から取材し発信するインタビューメディア。http://epmk.net/