車内に「ひとりぼっち」の犬たちから、声なき声が聞こえてくる
大型スーパーなどの駐車場に車を停めると、車内でお行儀よく待っている(なかには吠えまくっている子も)犬を見かけることがあります。ご主人が去っていった方向ただ一点を見つめ、黙ってすっくと立つ姿には、凛々しささえ感じるもの。
あの車内にポツンと取り残された犬たちの表情に注目し、撮影し続けるフォトグラファーがいました。ロンドン在住のフォトグラファーMartin Usborne。彼の作風はちょっと独特、カメラを向け続けるのは怒りや悲しみにくれる動物たちのリアルな表情です。
ここにはMartinだから拾えることができた、“ぼっち犬”たちの喜怒哀楽があります。彼らもまた人間と同じように、一匹として同じ表情をしていません。
プロジェクト『Dogs in Cars』、窓ガラスの向こう、彼らの声なき声が聞こえますか?
彼らは、ただじっと
主人の戻りを信じて待っている
まだ4歳か5歳のころ、Martin自身も車内でひとりぼっちを経験したことがあるんだそう。
「たぶん時間にしたらほんの15分くらいなものだったんだと思う。おそらく両親が向かった先はスーパーマーケットとかだろう。だけど、そういった詳細なんてどうでもよくって、小さなぼくはもしかしたら、もうこのまま誰も戻らないんじゃないかって、永久にひとりぼっちかもしれないと怖くてたまらなかったんだ。
ちょうどその頃、テレビで見た動物虐待のドキュメンタリーが今でも心の中から消えていかなくて。それはボストンバッグに押し込まれた犬が足蹴にされているシーンだった。もうすっごくショックで、それなのに犬はひと言も悲鳴をあげたりしなかったんだよね。
このふたつの幼少期の経験がぼくの中でとても大きなもので、孤独であること、誰にも聞いてもらえないこと、これらの恐怖感を写真のなかで伝えたかったんだ」。
あえて暗くトーンを落とすことで、車内の犬たちの表情を際立たせるようにしているそうです。あるものは吠え、あるものはまゆをひそめ、またあるものはただじっと主人の方へと視線を送る。薄暗い車のなかで。Martinが言うように私たち人間もまた、こうしたいちばん暗い部分にこそ、本当の意味での人間性が潜んでいるのかもしれませんよね。