20年以上「カタツムリの軌跡」を撮り続けている男
一風変わったプロジェクトが始まったのは、もう20年以上も前のことだ。
「突然、チャンスが目の前に転がってきた感覚を覚えた。もちろん『これがしたい!』と求めていたわけではなかったけれど、そんなことのほうが、かえって面白い場合もありますよね」
ことの次第をそう振り返えるのは、写真家Daniel Ranalliさん。マサチューセッツ州・ケープコッドの干潟で、ふと目にした光景に心を奪われた。
この動きを
どう捉えればいい?
彼の足元には、何匹かのカタツムリとそれらが移動した跡が。それを見て「軌跡には無数のパターンがあるのでは?」と思い、なんとなくカメラを構えたのだそう。
と、サラッと書いてしまったが、その着眼点に驚かされる。
そうしてスタートしたのが、この「Snail Drawings」という写真プロジェクト。複数のカタツムリをさまざまに配置し、それぞれが動いた軌跡を撮影するというものだ。
Before/After
正直言って、ここから何を読み取ればいいのかは分かりかねる。そもそもこれは、アートなのだろうか?それとも、生物学的な実験?Danielさんの言葉を聞くかぎりは、両方の性質を兼ね備えていると言える。
「私は、科学の文脈の中でアートが果たす役割に興味がありました。だからこそ、これらを写真として記録する必要があったのです。
20年以上この活動を続けてきて、彼らの行動について学ぶことができました。基本的には水に向かって動き、暑いときはあまり動きません。以前は数分歩けば30〜40匹を簡単に見つけることができていましたが、今ではその半分程度しか見つからなくなってしまいました。いろいろな発見がありますね」
カタツムリの軌跡を見たことがあるという人は、決して少なくないだろう。しかし、それを観察し、写真として切り取りつつ、アート・生物学的な資料としての価値をも付与するなんてアイデアは、まず生まれないのではないだろうか。