短期間で人を育てる「ディズニーの魔法」とは?
「うまく人を育てられない」、「リーダーとして行き詰まっている」、部下をまとめる役職として、人材育成に悩んでいませんか?
書籍『3日で変わるディズニー流の育て方』(サンクチュアリ出版)では、ディズニーのキャストを10万人育てたという著者の櫻井恵里子さんが、人もチームも自立できる「チームビルディング(組織づくり)」をまとめています。
「リーダーとしてどのように立ち振る舞うべきか」を今一度考えるチャンスかもしれません。ぜひ、自分のチームづくりに生かしてみてください。
独裁者にならず
「奉仕型リーダー」を目指す
組織やチームのまとめ役に必要な能力は何かと問われれば「リーダーシップ」と答える人が多いのではないでしょうか。
ひと昔前までは、リーダーシップはひとつの才能であるとされてきました。しかし、近年では「技術」であることが明らかになっています。このことにいち早く気づいたのがウォルト・ディズニーです。ウォルトは、
「リーダーシップとは、創造的な風土を管理する能力である。そして個々の価値が十分に認められた参加型の環境において、人々は、建設的目標の達成に向け、自らを動機づける」
という教えを残しています。
すなわち、カリスマ性のあるリーダーがすべてを引っ張るのではなく、個々の価値が十分に認められる環境を作り、メンバーの生む創造的な風土を管理することこそ、リーダーの本質であると見抜いていたのです。
では、この技術はどのように身につければ良いのでしょうか。
近年、注目されているのが「サーバント・リーダーシップ」です。従来の「リーダーのためにメンバーがいる」という発想を逆転させ、「メンバーを支えるためにリーダーがいる」と定義します。リーダーはメンバーの自主性を尊重し、成功や成長のために奉仕するため行動します。そうすることで信頼関係が生まれ、目標達成の可能性も高まるでしょう。まさにウォルトが唱えたリーダーシップ論そのものです。
「サーバント・リーダー」を目指すために重要なのは「傾聴」する姿勢です。まずメンバーが何を考えているのかを知った上で行動していく必要があります。また、相手の立場に立つことも重要です。「人は不完全である」という前提に立ち、相手をどんなときも受け入れる姿勢を持ちます。指示を出す際も、服従を強要せずに相手の同意を得つつ互いに納得しながら話合わなければなりません。メンバーの利益を優先し、前に出過ぎず、できる限り裏方に徹します。
こうしてメンバーへ奉仕できるリーダーこそが、明るく活気にあふれ、成果を上げるチームを作っていけるのです。
感動をシェアすることで
チームが育つ
人材教育において重要なことのひとつは、仕事に対するモチベーションをいかに高めるかです。ディズニーでは、キャストがゲストの役に立っていることを実感しているため、全員がポジティブで高いモチベーションを持って働いています。これはディズニーの育て方の賜物でもあります。こうした教育の鍵となっているのが「感動のシェア」です。
私が新人時代、研修でパーク内を清掃していたときでした。ふと10歳くらいの女の子と、その傍らで佇む男性の姿が目に入りました。女の子の表情は沈み、父親らしき男性は途方にくれた様子。私は思い切って声をかけました。すると男性が「ミッキーに会える場所が分からなくて」と弱々しく返答したのです。そこで私は、ミッキーマウスのいるアトラクションへご案内しました。
1時間ほどが過ぎ、そのお二人がわざわざ私のところまで戻ってきてくれました。その顔には満面の笑みが浮かんでおり、女の子が「ミッキーに会えた」と言うのです。男性からは何度もお礼を言われ、自分たちのことについて話してくださいました。その男性は、娘さんと離れて暮らしており、その日が大切な面会日であったこと。だからどうしても、娘の大好きなミッキーに会わせたかったこと…。
その日の研修報告会で指名を受けた私は、このエピソードを報告しました。その際、感極まって泣いてしまったのですが、他のキャストも同じく涙を流してくれました。こうして本音を語り、素直に泣くことが許される職場というのは、今思えばとても素晴らしい場所でした。
このように感動をシェアすることで、個人に起こった卓越した経験を、全体で共有することができます。これは心理学的に「代理体験」と言い、仕事に対するモチベーションの源泉となる「自己効力感」を育むことに繋がります。自己効力感が高くなると「粘り強く努力する」といった前向きな人材へと成長できるとされています。
ぜひ、あなたの職場でも、お客様との感動エピソードをシェアしていってほしいと思います。その際ポイントになるのが鮮度です。本人の記憶が新しく、しっかり感情移入して語れる内に、みんなの前で発表してもらうことをおすすめします。また、お客様を感動させるような体験をしたスタッフがいたら、できる限り具体的に褒めて、本人に感動を根付かせるようにします。これらを繰り返すことで、チーム内には自然に褒め合う文化が生まれ、各個人のモチベーションもどんどん上がってくるでしょう。
メンバーの自己肯定感を
高めることが一番
あなたが統率するメンバーの中で、能力はそれなりにあるのに、いつも自信なさげで積極性に欠ける人はいるでしょうか。もしかすると、その方は「自己肯定感(自分は大切な存在であると思える心の状態)」が足りていないのかもしれません。
自己肯定感の高低というのは、仕事に大きな影響を与えます。例えば、リーダーに頼まれた仕事を自分なりに一生懸命こなしたメンバーAさんがいるとします。Aさんの自己肯定感が高ければ、仕事が認められると素直に喜び、修正を指示されてもそれほど落ち込みません。反対に自己肯定感が低いと褒められても喜びませんし、指摘されたミスを引きずってしまいます。
Aさんの自己肯定感を高めるため、リーダーは十分にサポートしてあげることが大切です。重要なのは、Aさんの良い点と改善点を理解した上で、ひとりの人間として尊重する視点を持つことです。あなたがどれほど大切か、役立っているかを常に語りかけ、感謝を示します。いつでも味方である、応援しているという姿勢でいることで、Aさんは、徐々に前向きになり、自分の力を発揮することができるでしょう。