間違った「糖質制限」ほどザンネンなものはない。
ダイエットや健康維持として、広く世に浸透した感のある糖質制限。けれど、思ったより痩せない、体調を崩した、なんて声もよく聞きます。間違った知識で始めるのが良くないのは、言わずもがな。
そこで、自身も糖質制限によるダイエットに成功し健康になったという管理栄養士の大柳珠美さんの著書『「糖質制限」その食べ方ではヤセません』(青春出版社)で、基礎知識や、正しい食事療法を学びましょう。
なんでも、あの夏目漱石作品のなかにも「糖質制限」が登場したっていうじゃありませんか。
「糖質」と「糖類」
糖質制限と聞くと、とにかく「糖」とつくものを減らせばいいと思いがちですが、そんなことはありません。じつはここに落とし穴があるのです。そこにハマらないためには、まずは糖質の種類について知っておく必要があるので勉強しましょう。
糖質とは炭水化物から食物繊維を除いたものです。そして糖質には、多糖類、糖アルコール、二糖類、単糖類などの種類があり、このうち二糖類と単糖類は「糖類」と呼ばれています。
・単糖類……ブドウ糖、果糖など
・二糖類……砂糖、乳糖、麦芽糖など
以上が代表的なもの。つまり、砂糖などの甘味料が糖類ということなのです。糖類以外の糖質、すなわち多糖類や糖アルコールには、
・多糖類(米や野菜に含まれる甘くない糖質)
デキストリン、でんぷん、セルロースなど・糖アルコール(甘味はあるが、体に吸収されにくい甘味料)
・エリスリトール、マルチトールなど
などがあります。
夏目漱石の『明暗』に
糖質制限は登場していた!
糖質制限はここ10年ほどで徐々に広がってきたため、新しい食事法と思われがちです。しかし、意外にその歴史は古く、明治時代の文豪・夏目漱石の小説のなかにも登場しています。
「お延、叔父さんは情けないことになっちまったよ。日本に生まれて米の飯が食えないんだから可哀想だろう」
糖尿病の叔父は規定の分量以外にでんぷん質を摂取することを主治医から厳禁されてしまったのである。
「こうして豆腐ばかり食ってるんだがね」
叔父の膳には、とても一人では平らげ切れないほどの白い豆腐が生のままで供えられた。
(夏目漱石『明暗』1916年)
糖尿病のために糖質の高いでんぷん質、つまり米を控えるというのは、まさに糖質制限そのものです。
面白いのはご飯の代わりに豆腐を食べているということ。今も糖質制限時の主食代わりに豆腐がよく使われますが、この頃から発想は同じだったことがうかがえます。
間違った糖質制限
“ザンネンな人”の1日
ここで紹介するのは、糖質制限を行っているAさん(女性)の1日をまとめたものです。いかにも節制しているように思えますが、間違った知識を持ってダイエットを行っているようです。
【朝食】
りんご、バナナ、人参を入れたスムージーを飲んだ。【残念ポイント】
バナナは糖質が高い果物の代表格。例え半量(50g程度)でも、糖質は10.7gもあります。人参も糖質が高めの野菜です。さらにスムージーにして液体にすることで、噛んで食べるよりも体への吸収が速くなり、血糖値を急激に上げてしまいます。
【昼食】
コンビニで買ってきた春雨スープ、サラダ、唐揚げ。肉はいくら食べてもいいのでガッツリ食べる。【残念ポイント】
ごはんやうどん、パスタなどを避けようとすると、大体こんなランチになりますよね。ダイエット中つい春雨を選んでしまうのは、カロリー制限のクセが抜けていない証拠。春雨はカロリーこそ低いですが、糖質は高めです。サラダはレンコンやゴボウ入りの根菜サラダ、ポテトサラダなどは糖質が高いので避けましょう。糖質制限では肉をすすめていますが、唐揚げは揚げ物なので、カロリーは高いです。また、揚げ油の質や酸化も気になります。
【夕食】
女4人で女子会。スパークリングワインで乾杯し、赤ワインをボトルで頼んだ。合計4本、つまり1人1本空けた。おつまみはサラダ、カルパッチョ、魚のフリッター。メインに肉料理を食べた。最初にサラダで食物繊維をとって次にたんぱく質……と血糖値を上げない「食べ順」にも気をつけた。【残念ポイント】
糖質制限中は血糖値を上げない焼酎やウイスキーなどの蒸留酒、醸造酒では唯一辛口のワインならOKとされます。乾杯のビールを我慢してスパークリングワインにしたのも、糖質を意識してのことでしょう。しかし、問題は飲酒量です。1人1本は明らかに多すぎます。このペースで飲み続けていたら、肝機能の低下が心配……。肝臓は糖の供給ともかかわっていて、アルコールがあるときはその分解を優先してしまいます。その結果、糖の供給がうまくいかなくなり、低血糖症を起こしてしまうことになるのです。食べ物順も含め、おつまみにも気をつけていますが、魚のフリッターは小麦粉の衣が多めなので、糖質制限的にはNGなのです。