「死んでいるように生きている」。慢性疲労症候群のリアルを写したドキュメンタリー。

誰だって、疲れて動けなくなることはある。でも、体のどこにも異常はないのに、原因不明の極度の疲れが半年以上も延々と続き、動くことや、時には話すことすらできなくなる病がこの世には存在する。

その名も「慢性疲労症候群」。休めば治る慢性疲労と混同されやすく、理解されにくいこの病を広めるため作られた衝撃的なドキュメンタリームービーが話題を呼んでいる。

「人生、なんでもできる」
あの日まではそう信じてた。

「物心ついた時から、世界じゅうを飲み込んでみたいって思ってた。なんでもできる、時間はまだまだある。そう思ってた

ハーバード大学を卒業し、プリンストン大学でも政治を学んだというJenniferさんも、慢性疲労症候群を発症したひとり。遊び、学び、パートナーと愛し合い…彼女の人生は、喜びで満ち溢れていた。

でもある日突然、立ち上がれなくなった。ソファから立てない。それが始まり。原因不明の疲弊感…。何が起きたのかわからない。不安で、もどかしくて、無力だった。

時には会話すらままならないことも。「ウウウ…ウウウゥワゥ…」と呻くだけ。脳の機能に異常が現れるこの病では、微熱や筋力・思考力の低下、睡眠障害も症状のひとつだ。

医者にいっても「ただの脱水だよ」と言われた。みんなが「怠けてる」と言ってイライラした。おかしいと思ってネットで調べて、やっと多くの人々が自分と同じように苦しんでいることを知り、衝撃を受ける。

そして改めて下された診断で告げられたのが、「慢性疲労症候群」。自分が治療の確立されていない難病に冒されていることを、彼女はここに来て初めて知ることになる。

同じ病に苦しんでいる人の数は、世界中で1,500~3,000万人。それなのに、知っている人はあまりにも少ない。

実際に病名がついたあとも、冷笑はあとを絶たなかった。「慢性疲労症候群だって?僕だって疲れてるさ!」「あぁ、僕もその病の人を見たことがあるよ 。『今日は会社に行く気分じゃないんだ』ってね」。そして響く、心無い笑い声。

知ってもらわなきゃ
始まらない。

陽の光すら目一杯浴びられず、体調も安定せず、もっぱらベッドにいるしかない。でもそれでも、「広める」ことはできた。病の状況をムービーに残してできるだけたくさんの人、世界中の人々に見せたのだ。自分自身のベッドから、インターネットで世界へ向けて思いを託す。

「この病になって以来、完全に寝たきりなの」

自分の人生が消えていくのを、何もできずに見ているだけさ」

患者の75%が仕事に支障をきたし、25%が家で寝たきりの状態となっている。外に出られないことで見えないものとなっていた病の実情を解き放とうとした。

闘病のなか、「無知」とも戦う

さらに、屋外を歩き回ることも困難となった患者の靴を並べるプロジェクトも実施。かつてはこの靴を履いて、それぞれ自分の人生を謳歌していたのだ。壊された日常について、あらゆる人に訴える手段となっている。

こちらはバレリーナの靴。「踊る喜びが恋しい」とある。

本当は、太陽のもとで動き回りたい。もっと、「生きていること」を実感したい。認めて欲しい。存在を知って欲しい。彼らにとって戦わねばならない相手は、自身の病だけではない。

Licensed material used with permission by Shella Films
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。