北京では「車内恋愛」が、結構ある。

中国の配車アプリ『滴滴出行』。

普通のタクシー、時間帯によってお得な白タク、ミネラルォーターのサービスもあるプレミアムな黒タク、さらには大型車など車種までも選べます。

1年の半分以上を北京で生活している私の感覚では、もはやこれなしにはスムーズな移動は不可能とも思われるほど、庶民の足として根付いています。近年、このアプリが普及してから、駅前や繁華街にタクシーが列をなして待機するといった風景は少なくなりました。

なかでも私がよく使うのが、『滴滴出行』で一般の人の車に同乗させてもらうライドシェア。

移動したい区間を打ち込むと、アプリが同乗可能なドライバーを探してくれます。登録しているドライバーも一般の方々。

“自分と同じ時間に同じ場所に行く人なんかいるの?”と思うかもしれませんが、職場や家が偶然近いという人は意外と多いもの。ドライバーは誰かを乗せるだけでお小遣いになるし、お客さんは通常のタクシー料金よりも安く移動ができます。

通勤ついでにお金を稼いじゃうなんて、合理的だな〜というのが最初の感想。

でも、自分で利用したり、愛用者の話を聞くと、その価値はお金以外にあることがわかってきました。

ライドシェアが提供するのは
「サードプレイス」!?

その特性上、ライドシェアのドライバーとお客さんは、生活圏が近い人同士というケースが結構あります。

“あそこに新しいレストランができたの知ってる? 美味しいよ”

“今工事しているあそこは次にホテルになるらしいよ”

自然と車内は情報交換や世間話の場になります。初対面でも踏み込んだ質問が得意な中国人のこと。どんな仕事してるの? 家族は何してるの? なんてパーソナルな話に花が咲くことも。

愛用者の友人は、“中国の人は今、職場と家族……それ以外の第三の繋がりを欲しがっているの。しがらみのない、サードプレイスというのかな。それが自分の人生をよりいいものにしてくれるって思っている。ライドシェアはそういうニーズも満たしているんだと思う”と言っていました。

実際、旦那さんがライドシェアのドライバーをしているけれど、“どんな人を乗せたのかは絶対履歴をチェックしない”という女性に会ったこともあります。女の人がいたら嫉妬してしまうかもしれない、でも旦那さんが第三のつながりを楽しんでいるのだから、そっとしておいてあげたいと言うのです。

別の友人は、“『適適出行』でいろんな車に乗ったけど、実はドライバーの質が一番良いのはライドシェア。高級な黒タクよりも良い”と言っていました。“他に仕事を持っていて、時間と余裕のあるときだけドライバーをやっている人が多いからか、知らない人とコミュニケーションをとりたい人が多い”そうです。

当然、男女の出会いの場としても!

そんなライドシェアを通勤で愛用していると、同じドライバーに当たる確立も高く、友達になることもしばしば。

これは私が顔見知りのドライバーから聞いた話。

彼は週末ジムの帰りに数回同じ女の子を乗せることに。いつもその子の表情は暗く、俯き加減。あてずっぽうに、“毎週デートの帰りにそんなに暗いなんて変な女だな! だいたい、どうして彼氏は送ってくれないの?”と冗談のつもりで言ってみたところ、ズバリ痛いところを突かれて女の子は泣き出してしまったそうです。それから、彼氏の愚痴を聞いているうちに、“それなら僕と付き合ってみる?”という展開に。今では二人は恋人同士。おとなしくて暗かった彼女も、彼の明るい性格にほだされて前向きになってきたそうです。

はたまた、別の友人の話。彼女がよく同乗するドライバーは、いつもは小さな車で営業していました。とても優しい人だったので、思い切ってデートに誘ってみたところ、デートにはものすごい大きなスポーツカーで現れたそう。じつは彼は大きな会社の経営者。自分を社長と知っている人たちとの会話にはうんざりして、わざと小さな車でシェアライドをするのが楽しみだったんですって。

そんなこんなで、北京の若者たちは口々に言うのです。

“シェアライドってね、本当に面白いのよ!”

交通の未来を感じるシェアライドというシステム。でも実際に使いこなしている中国の人々にとっては、便利なツールであるだけでなく、日常に癒しや新発見、時には出会いをもたらしてくれるものでもあるようです。

もしかすると『滴滴出行』は、未来系というよりはドラマ系ツールなのかも!?

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。