同性に告白して銃で撃たれた少年がいた。これは、差別をなくす物語
『人魚姫』『白雪姫』『シンデレラ』世界中で愛されている物語。王子さまと美しい女性たちが恋に落ちて、どれも幸せな最後を迎える。これが、おとぎ話の王道。
けれど、「Promised Land」というお話と出会ってから、当たり前に思い込んでいた“愛のかたち”が覆されたのだ。
“愛する権利”は、
誰にだってある
「Promised Land」の内容を簡単に説明すると、王子様と農場育ちの少年が出会い、困難に立ち向かいながら友情を育む。そして、お互いに恋心が芽生えるというもの。
自らもLGBTである作者のAdam ReynoldsとChaz Harris。彼らが、「この物語をつくらなくてはいけない」と思ったのにはある理由があった。ふたりはこう語る。
Adam Reynolds:男同士や女同士の恋愛が問題視されない世界をつくりたいなって。“自分の性”について悩む若者が、僕らが生み出したキャラクターをきっかけに、本当の自分を見つけて欲しいという思いを込めているんだよ。
もしも、僕の子ども時代に、こういう本があったら人生が変わっていたかもしれない。そう、思うんだ。
Chaz Harris:初めて物語についてふたりで話し合ったとき、2008年頃にテレビ番組で取り上げられていた少年の話を思い出したんだ。その子は、同じクラスの男の子に告白したところ、銃で撃たれてしまってね…。
この悲しい事件が二度と起きませんように。番組を見たとき、なんとかしたいと思ったんだけど、何もできない自分が情けなくて。その時の答えの一つが、『Promised Land』を生み出すことなんだ。
自分の「心」に、
正直であるためには
Adam Reynolds:僕は、周りの子どもたちに「ゲイ」と呼ばれて虐められていたんだ。バカにされるたび、母親に泣きついていたことを今でも覚えているよ。7歳くらいのときだったんだけど、まだ本当の自分のことをよくわかっていなかった。それは、大学に入ってからも続くことに。大学生になったときには、もう気持ちに気づいていたんだ。
どうしても恥ずかしくて、自分を押し殺した。そのためか、僕を虐めていた人たちの言葉に傷ついて、ずっと自分が悪いんだという罪悪感に苦しんでいたっけ。レディー・ガガの『Born This Way』に出会う21歳のときまで、自分と向き合うことができないままでいた。
曲を聴いたあと、素直に周囲に打ち明けたら、家族も友達も優しく受け入れてくれたよ。今では、10代の頃に大事なことを隠したままだったことを後悔してるよ。もっと、勇気を持てばよかった。
Chaz Harris:学生時代、僕はまだ自分が同性愛者だということに、ボンヤリとしか気づいていなかったんだ。そのことが原因で、5年も虐めを受けてきた。当時は、我慢していればいつか終わるんだって…。自分が世の中にとってはネガティブな存在である「ホモ」や「ゲイ」と呼ばれることを否定し続けていたんだ。
エレン・デジェネレスが同性愛をカミングアウトしたとき、僕は14歳だったかな。その頃には自分自身もゲイであることを少し理解していて、高校を卒業するまでには「やばい、そうなのかも」と、思うように。
だけど、あるドラマでLGBTの主人公が、周囲から“普通の扱い”をされていたのを見て、僕の考えは変わったんだ。だからって、すべての知り合いに告白したワケじゃないんだけど、打ち明けたときの家族の言葉が優しかったのを覚えているよ。
LGBTという理由で辛い思いをしてきたAdamとChazだけど、どちらも正直に打ち明けることで“本当の自分”を出せたのだと。周囲が受け入れやすく、理解を深めるためにも、王子と少年の恋物語を子どもの頃から読んで欲しいとふたりは言う。
その思いが通じたのか、ニュージーランドをはじめ、アメリカやカナダ、ヨーロッパなど各地で注目を浴び、教材としても購入されるようになったのだ。
ふたりの挑戦はまだまだ続く。今後はさらに、LGBTを題材とした本をシリーズ化できたらと考えているようだ。
人を“愛する権利”は誰にでもあるはずなのに、同性同士の恋愛は一歩引いてしまう人がまだまだ多い気がする。現実でも物語の世界でも、同性愛が“当たり前のこと”となったとき、世界はやさしい愛で満たされるのかもしれない。
Adam ReynoldsとChaz Harris