ガラスの靴だけじゃ、足りないの。
小さい頃に博物館で、マウスか何かの骨の標本を見た。とても小さくて、脆そうで、でも一寸の狂いもなく整然と噛み合う骨の様子に、「これは神様が設計したに違いない」と漠然と思った。
そんな感覚を呼び覚ますアーティストがアメリカのKit Paulson さん。現在イリノイ州の美術学修士号取得を目指している彼女の持ち味は、手作業で地道に作られるそのガラス細工の精巧さ。
虫や羽根だってお手の物だし、
骨格だって緻密にガラスで表現する。
レースのハンカチ、と思いきやこれもガラス製。
ガラス細工師の本気を見よ!
でも彼女の作品の中でひときわ注目したいのは、なんといってもガラスの「仮面」や「鎧」、「ヘッドドレス」などの数々の装飾品。細かなパーツをひとつひとつ溶接した神秘的なマスクには彼女の世界観が存分に表現されているよう。
鹿の骨格がモチーフのもの。
鳥の仮面。ペストマスクのような妖しさもある。
オオミズアオという蛾がモチーフのこの作品は、装着すると口が塞がれる形。
成虫のオオミズアオは口が退化していて、ものを食べたり音を出すことができません。その代わりフェロモンを出すことによって仲間と交信し、卵を産みます。
私たちも親しい人とさえ、口で話し合い、わかり合うことができないかのように感じることがあります。人間もそのような時、蛾と同じように言葉以外によって通じ合うことができるかもしれません。言葉が全てではないのです。
Licensed material used with permission by Kit Paulson