この作品の「正体」が凄すぎて、何度も何度も見てしまった。
一見、モノクロ写真と見間違えるような、精密な肖像画。これ実は、たった1本の鉛筆で描かれているんです。手がけているのは、23歳のナイジェリア人アーティストKen Nwadiogbuさん。
絵こそが僕のマイクであり、僕の声を伝えるための手段だ。
そう語るKenさん。独学で芸術を学び、ある強い信念を持って、肖像画を描き始めました。
僕は世界を変えたい。
この一本の鉛筆で。
Kenさんは大学で土木工学を専攻していたため、芸術はすべて独学で学びました。彼の両親は、まさか息子がアートを生業にするとは思っておらず、非常に心配していたと言います。ナイジェリア国内では、まだアーティストとして生きる生活基盤が確立されていなかったことも、両親の心配の種のよう。
それでも、Kenさんにはアートを通して、どうしてもやりたいことがありました。それは、彼のルーツであるナイジェリア人としての精神を、絵画に反映させることです。
Kenさんの肖像画に描かれるモデルのほとんどが、黒人の男女。微笑んでいるもの、アンニュイな表情を浮かべているもの、叫ぶような歪んだ顔など、人々の繊細な感情の機微を描き出しています。
彼は、ナイジェリア人やリビア人をはじめとするアフリカ出身者がたどった奴隷の歴史、迫害された記憶、差別の視線と、その過去から脱却しようとする人々の力強さを描いているのです。
人種差別に関わらず、世界には様々な「不平等」が溢れています。今現在も続く古い家制度など、人々が生きづらいと感じる要素を世界から消すことは容易いことではありません。
Kenさんは、そんな世界を、一本の鉛筆で変えていきたいと語ります。
今、ナイジェリア国内のアート事情は少しずつ発展を見せ、Kenさんのような若いアーティストが注目されるようになっているそうです。彼の描く肖像画には、世界の現状と、それを変えなければならないというメッセージが込められています。この強い思いを、これからも人々の心に訴えかけていくでしょう。
「私たちにできることは何か」。
彼の力強いタッチから、僕はそんな思いを抱かずにはいられません。