「テクノロジー」に注目するだけで、W杯はもっと面白くなる

大会3日目のフランス対オーストラリアは歴史的な試合になった。

格下と目されるオーストラリアが優勝候補を相手にジャイアントキリングを起こした、というわけではない。結果は2-1でフランスの勝利。極めて順当といえる。

では、何が歴史的なのか?

実はフランスに勝利をもたらした2つのゴールそれぞれに「テクノロジーの力」が関わっているのだ。

フランスの1点目のシーン

ひとつ目のテクノロジーは、今大会から導入された「VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)」。PKやレッドカードの対象となるような際どいプレーが発生した場合に、主審が映像を確認してジャッジを下すというものだ。

フランスの先制点はこのVARによるもの。攻撃時にペナルティーエリア内でFWアントワーヌ・グリーズマンが倒されるも、ノーファールの判定で試合は続行された。

しかし、プレーを止めて映像を確認した結果、オーストラリアDFにファールがあったとしてフランスがPKを獲得。これをきっちりとグリーズマンが決めるわけだが、このゴールは長いワールドカップの歴史の中で初めて、VARによってもたらされたものとなった。

フランスの2点目のシーン

そもそもサッカーでは、ボールが「完全に」ゴールラインを超えないかぎり得点が認められない。ネットを揺らすようなシュートであれば誰の目にも明らかだが、例えばライン上ギリギリでボールを掻き出したような場合、見極めるのは困難だ。

そこで、ふたつ目の「ゴール・ライン・テクノロジー」。これはボールが完全にゴールラインを超えていた場合、1秒以内に主審の腕時計を振動させ、ディスプレイに「GOAL」と表示させるもの。前回のブラジル大会から導入されている。

フランスの2点目は、このテクノロジーによるものだった。ゴール前でオーストラリアDFの足に当たったボールは、クロスバーに当たってピッチ上にバウンド。一見しただけでは判定が難しいものだったが、主審の腕時計にゴールインが知らされた。

ちなみにTV中継やメディアの報道等では、VARとは異なり「GLT」とは略さずに使うのが一般的。

テクノロジー導入の賛否両論

確かに、「主審を守る」という意味ではメリットでしかない。人の目で瞬間的にジャッジを下す以上、100%正確な判定などあり得ないからだ。

自宅のリビングで何度もリプレイ映像を見たのち「ファールだ」「いや、ファールじゃない」と気軽に見解を述べられる視聴者とはワケが違う。ワールドカップのようなビッグトーナメントで誤ったジャッジをしようものなら、半永久的に「誤審をした誰それ」として語り継がれてしまう。

一方、ポジティブな側面の代償として、失われてしまうものもある。

90分という決められた時間のなかで戦うサッカーには「流れ」が存在する。ゴール・ライン・テクノロジーは1秒以内なので問題視されないが、VARは間違いなく「流れ」を止めてしまうものだ。

これはプレーしている選手にとってだけでなく、観る側にとっても大きい。ファールばかりで何度も笛が吹かれて流れが止まってしまう試合はつまらない、と見るサッカーファンは多い。

さらに事態を複雑化させるのが、「誤審が名場面を生むこともある」という事実だ。

人の目という不完全なものがジャッジしたからこそ、世界中のサッカーファンは1986年から今日に至るまで、ディエゴ・マラドーナの神の手を語り草にすることができた。

もっとも、何より優先されるべきが両チームの公平性であることは言うまでもない。近年はそのためにテクノロジーが活用されていて、様々な捉え方がある。そんなことを知っておくだけで、まだまだ始まったばかりのワールドカップをより一層楽しめるかもしれない。

Top photo: © iStock.com/Ohmega1982
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