ピロシキとも肉まんとも違う草原の国の「ホーショール」

モンゴル料理は肉と、小麦と、野菜が少々、それとお米。多様で多彩なアジアの食文化において、お世辞にも華やかとは言えません。滋味というよりむしろ、野暮ったく無骨な味わい。けれどそれが良さでもある。

取材のチャンスを得て、これまで8回ほど草原を旅してきましたが、遊牧民の生活に分け入って食べる食事は、羊やヤギやヤクなど家畜の肉と乳製品がメイン、あとはときどき「ホーショール」。
このホーショールを食べて欲しいのです。一日でも早く。草原である必要はありません。ウランバートル市内でもいい。まずは、その理由から。

異常気象により
失われゆく“リアルな味”

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これが草原の国なのか、と目を疑ってしまうほど近代化が加速するウランバートル。旧ソ連様式の殺風景な建築物を押しのけるように、都心にはモダンな高層ビルが年々増加し、都市整備が急ピッチで進んでいます。
けれど、都市と呼べるエリアはほんのごく一部。あとは移動式住居ゲルがひしめくように辺りを取り囲む異様な風景が、首都ウランバートルの実態。その数20万戸とも。

2000年以降、モンゴルの人口(約318万人)のおよそ2割近くが首都ウランバートルに流入したと言われています。そのほとんどが遊牧民たち。モンゴル特有の自然災害(ゾド)が原因で家畜が大量死し、遊牧を続けられず、働き口を求めてやってきた人々。

家畜と草原を失った彼らのつくるホーショール。それが、いまウランバートルで食べるべき味です。

牧畜文化と小麦文化の融合

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くだんのホーショールとは、羊肉のミンチやたたき肉を小麦粉の皮で包んで揚げた伝統的な家庭料理。よく、モンゴル版「ピロシキ」とか「揚げ餃子」に喩えられますが、はっきり言ってそのどちらでもない。
ロシアや中国にルーツがあるかもしれません。でも、牧畜文化と小麦文化の交流の中で生まれたのがこのホーショール。草原の民のアイデンティティそのもの。

じゃあ、単に肉詰めして揚げただけかといえばさにあらず。炒めた玉ねぎとともにアクセントフレーバーとなっているのがキャラウェイシード。臭い消しとしても一役買っています。

ホテルの朝食や市内のカフェでも提供され、街にはスタンドが出たりと、スナック感覚で食されるホーショールですが、そんなものには目もくれず、迷わずバス停や鉄道駅、ナラントール・ザハをはじめとする市場へ。草原を知る人たちの“リアルな味”がそこにあります。

いま、食べておくべき味

正直に告白すれば、どこに違いがあるのかうまく説明できません。ただ、舌の上の記憶をたどれば脂身の使い方なのか、揚げ方なのか、スパイスの配分か。とにかく、都市生活ではまず考えられないような獣臭がし、それを強引に抑えつけキャラウェイのつぶつぶ食感があり、イーストによる膨らみとは明らかに異なるどっしりとした生地だったり。洗練なんて言葉の真逆。「こういうものである」という無言の主張なのです。

草原に出るチャンスがあるならば、そして遊牧民たちとの交流の場がもてるようであれば、そこで食べるに越したことはない。けれど、それすらあと何十年後かすれば“遺産”となってしまうかもしれません。
草原を知らずに育った世代がつくるホーショールにとって変わる前に。ゆえに、今しか食べられない味を!

改めて、揚げ餃子とは
別物ですが…

再現は厳しくとも、近しい味ならばできるはず。小麦粉を練って生地からつくれば完璧ですが、その手間を省くのであれば用意するのは「餃子の皮(大判)」。サイズ的には春巻きの皮で行きたいところですが、揚げた時の食感がパリパリすぎてしまうためNG。

再現料理:ホーショール
再現食材:餃子の皮(大判)
再現度:★★☆☆☆

Top image: © natali_ploskaya/Shutterstock.com, 2018 TABI LABO
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。