失われゆく草原のタマシイを喰らえ

モンゴル料理は肉と、小麦と、野菜が少々、それとお米。多様で多彩なアジアの食文化において、お世辞にも華やかとは言えません。滋味というよりむしろ、野暮ったく無骨な味わい。けれどそれが良さでもある。

取材のチャンスを得て、これまで8回ほど草原を旅してきましたが、遊牧民の生活に分け入って食べる食事は、羊やヤギやヤクなど家畜の肉と乳製品がメイン、あとはときどき「ホーショール」。
このホーショールを食べて欲しいのです。一日でも早く。草原である必要はありません。ウランバートル市内でもいい。まずは、その理由から。

異常気象により
失われゆく“リアルな味”

6040830447976448
©Baiterek Media/Shutterstock.com

これが草原の国なのか、と目を疑ってしまうほど近代化が加速するウランバートル。旧ソ連様式の殺風景な建築物を押しのけるように、都心にはモダンな高層ビルが年々増加し、都市整備が急ピッチで進んでいます。
けれど、都市と呼べるエリアはほんのごく一部。あとは移動式住居ゲルがひしめくように辺りを取り囲む異様な風景が、首都ウランバートルの実態。その数20万戸とも。

2000年以降、モンゴルの人口(約318万人)のおよそ2割近くが首都ウランバートルに流入したと言われています。そのほとんどが遊牧民たち。モンゴル特有の自然災害(ゾド)が原因で家畜が大量死し、遊牧を続けられず、働き口を求めてやってきた人々。

家畜と草原を失った彼らのつくるホーショール。それが、いまウランバートルで食べるべき味です。

牧畜文化と小麦文化の融合

4810628820631552
©natali_ploskaya/Shutterstock.com

くだんのホーショールとは、羊肉のミンチやたたき肉を小麦粉の皮で包んで揚げた伝統的な家庭料理。よく、モンゴル版「ピロシキ」とか「揚げ餃子」に喩えられますが、はっきり言ってそのどちらでもない。
ロシアや中国にルーツがあるかもしれません。でも、牧畜文化と小麦文化の交流の中で生まれたのがこのホーショール。草原の民のアイデンティティそのもの。

じゃあ、単に肉詰めして揚げただけかといえばさにあらず。炒めた玉ねぎとともにアクセントフレーバーとなっているのがキャラウェイシード。臭い消しとしても一役買っています。

ホテルの朝食や市内のカフェでも提供され、街にはスタンドが出たりと、スナック感覚で食されるホーショールですが、そんなものには目もくれず、迷わずバス停や鉄道駅、ナラントール・ザハをはじめとする市場へ。草原を知る人たちの“リアルな味”がそこにあります。

いま、食べておくべき味

正直に告白すれば、どこに違いがあるのかうまく説明できません。ただ、舌の上の記憶をたどれば脂身の使い方なのか、揚げ方なのか、スパイスの配分か。とにかく、都市生活ではまず考えられないような獣臭がし、それを強引に抑えつけキャラウェイのつぶつぶ食感があり、イーストによる膨らみとは明らかに異なるどっしりとした生地だったり。洗練なんて言葉の真逆。「こういうものである」という無言の主張なのです。

草原に出るチャンスがあるならば、そして遊牧民たちとの交流の場がもてるようであれば、そこで食べるに越したことはない。けれど、それすらあと何十年後かすれば“遺産”となってしまうかもしれません。
草原を知らずに育った世代がつくるホーショールにとって変わる前に。ゆえに、今しか食べられない味を!

改めて、揚げ餃子とは
別物ですが…

再現は厳しくとも、近しい味ならばできるはず。小麦粉を練って生地からつくれば完璧ですが、その手間を省くのであれば用意するのは「餃子の皮(大判)」。サイズ的には春巻きの皮で行きたいところですが、揚げた時の食感がパリパリすぎてしまうためNG。

再現料理:ホーショール
再現食材:餃子の皮(大判)
再現度:★★☆☆☆

Top image: © natali_ploskaya/Shutterstock.com, 2018 TABI LABO



まだまだ、アジアを喰らえ!

いざ、魅惑と味覚のワンダーランドへ
海と山と大地のエキスを包み込んだ、中国・青島の「水餃子」について。
こればっかりは、路上で食べてこそ。ベトナム風ぜんざい「チェー」について。
外苑前にある「ワールド・ブレックファスト・オールデイ」は、“朝ごはんを通して世界を知る”がコンセプト。その土地ならではの歴史や文化、栄養、楽しい生きかたの...
濃い味付けの多いインドネシア料理において、とにかく胃にやさしいバリ島の「ガドガド」について。
マリファナの販売店「Nuwu Cannabis」がスポンサーになっている、随分と型破りなチームです。
ミントタブレット、適当に選んでませんか?
距離はそこまで離れてはいないけれど、なかなか足を運ぶキッカケがない。モンゴルには、どこか“近くて遠い”印象がありませんか?ここで紹介するのは、そんな同国の...
磯臭いのに恐ろしくビールがすすむ、香港の「油菜」について。
脳内麻薬が炸裂しそうなカンボジアの「生春巻き」について。
すべては、極上のシメのため。コタキナバルの「蒸し鍋」について。
台湾のコンビニに染み付いた、あの匂いの根源「茶葉蛋」について。
遊牧民と聞くと、モンゴルの草原をイメージする人が多いと思いますが、中央・中東アジアに位置するアフガニスタンも大地を移動する民が暮らす土地。移動する彼らにと...
チベットと聞いて思い出すのは、頭痛だ。僕が滞在したのは一週間。映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』にかけて“セブン・デイズ”の滞在だったのだが、毎朝ひ...
映画史に残る伝説のアクションスター、また、武道家として、世界中の人々に愛されたカリスマ的存在。その非凡さは数々の発言にも現れています。ここでは、「Powe...
8月下旬にコロナビール主催のスペシャルイベントにご招待いただきました。
Airbnbが新たに始めた取り組み「Airbnb Kitchens of Asia」。旅先で、ローカルの食材や料理法を楽しみながらステイしてほしいと、アジ...
どんなに外が暑くたって、夏といったらBBQだし、ピクニック気分。つまりは「外メシ」がおいしいシーズン。あぁ、早く梅雨が明けないかな。
スプーンやフォークは言うに及ばず、ニンニクマッシャー、チーズグレーター、オレンジやレモンの皮を削るゼスターなど、普段のキッチンツールのなかでも「ひと手間」...
2017年5月13日(土)〜14日(日)にかけて開催予定の『第一回 ASO ROUND TRAIL』は、全長約105kmに及ぶ九州初となるロングトレイルラ...