水中ライブする音楽集団「AquaSonic 」

デンマークのグループ、AquaSonicの水中ライブ動画は、音楽性うんぬん抜きにしても、初めて見ればビックリすること間違いなし!

水の中で操っている楽器は見たことのないものが多いし、どうやって声を出しているのかもハテナが浮かぶ。息継ぎだって大変そう。まずは単純に、どうなってるの? って目線でチェックしてみて。

一見不気味。難解な実験音楽と片付けられてしまうかもしれない。けれど、彼らにとっては、文化や宗教、社会の違いを超えた、“ほとんどの人に関係ある音楽”なのだそう。

アジアツアーを来年に控えている彼らのプロジェクトについて、ディレクターであり、プレイヤーでもある、Robert Karlssonさんに話を聞いた。

©Jens Peter Engedal

AquaSonicのディレクター、Robert Karlssonさんの写真。

 

――なぜ水中で演奏するスタイルに?

 

このプロジェクトを始めたきっかけをつくったのは、アーティスティック・ディレクターのLaila Skovmand(以下、ライラ)です。

©Per Victor

AquaSonicのアーティスティック・ディレクター、Laila Skovmandの写真。

この音楽は、ライラのひらめきや音楽的なバックグラウンド、水の中で響くサウンドをミックスしたもの。彼女は水の中で音楽を演奏する構想を練っていて、徐々にその答えを見出していったんです。

 

――まずはどうやって歌っているのかも気になりました。口から空気が出ていないように見えたので、不思議だなと。

 

はじめにライラはボウルに貯まった水の中でどうやったら歌えるのか? ということを模索していたんですが、口の中につくった空気の塊をうまく使って、水中で歌えるようになったんです。

もっと具体的に言うと、声を出し、その空気が口の外に出る寸前に、再度吸い込んで次の音に備えます。最初は短い音しか出せませんでしたが、今は空気の塊を吸ったり吐いたりしながら、歌えるようになりました。

 

――かんたんには真似できそうにありません。しかも、危なそう……。

 

ははは。試験的な段階から、実践段階に至るまで11年くらいかかってますからね。

 

――使っている楽器は、もちろんこのプロジェクト専用の特注ですよね? 見たことがないものがほとんどです。

 

©2018 Charlotta de Miranda

『Rotacorda』。白いパーツを回転させて弦を当てて摩擦音を操る。胴体部分に一定の間隔で設置されているいくつもの板は、ギターのフレットのように機能する。

©2018 Charlotta de Miranda

『Hydraulophone』。丸いボタンを指で押し、チューブの中に流れる水流の音を操る楽器。

©2018 Charlotta de Miranda

『Percussion』。水中で不安定になりやすい打楽器の響きを安定させるために、音響学者と楽器職人が協力し、水槽内の配置を最適化したパーカッション。

©Jens Peter Engedal

『Carbon violin』。テスト時に、普通のバイオリンも水中で機能することがわかったが、3日ほどでバラバラに分解してしまった。これは、カーボンファイバーや人工素材を使った特注品で、使用するロジンも水中用。

©2018 Charlotta de Miranda

『Crystallophone』。回転するガラスボウルのふちに指を当て、摩擦音を操る楽器。特別甘い響きが楽しめるという。

そうですね。ほとんどの楽器は、真鍮や、アルミニウム、ブロンズ、ステンレススチール、カーボンファイバーなど、水に強い素材で特注しています。

制作チームには、ビョークのBiophilia Projectで使われた楽器『Gravity Harps』の制作者・Andy Cavatortaさんや、科学者のRyan Janzenさんなどがいます。

これまでにない分野を開拓するプロジェクトだったため、発明家や科学者、ダイバーなど、様々な専門家たちに協力してもらう必要がありました。彼らの意見を聞きながら一緒に仕事をし、新しい挑戦のなかで彼らの貢献を目の当たりにできたことは、とても刺激的でした。

既存の知識をかけ合わせて発明をしたり、それに必要な調査をしなければなりませんでしたから。

 

――それだけ技術的にも特殊な形態となると、パフォーマンスの準備もそれだけ大変だと思うのですが、今では世界中を飛び回っていますよね。

 

実際、かなり難しいです。移動も、設営時間も、重さに耐えうるステージも必要ですから。でも、楽しさはそれ以上にあります。今までにない音楽の楽しみかたもできます。

ちなみに、水の音ってその場所の水質によって変わるんです。酸性、アルカリ性、石灰や塩素の量などでも、違うサウンドが出るんです。

いつもその土地ならではのローカルウォーターサウンドを、楽しみにしていますよ。

 

――へー! 考えたこともありませんでした。ただ、聞き分けられる人はAquaSonicのメンバーだけかもしれませんけど……。

 

ははは。でも、オーディエンスにとっても、新しい楽しみかたがあるだけではないんです。人間っていうのはみんな、水と関係が深いでしょう?

私たちの生命は水の中から進化してきたわけですし、赤ちゃんのときだって母親のお腹の水のなかにいたわけですから、この音楽はそういう存在でもあるんです。

 

――特別ではなく、むしろ身近なものということですか?

 

はい。だから、AquaSonicは、文化や宗教、社会の違いを超えて、ほとんどすべての人に関係のある存在なんだと思っています。

 

――実際にパフォーマンスを見たオーディエンスの反応はどうでしょう。

 

ショーのあとは大体、アーティストトークをして、プロジェクトのことを話したり、質問を受付けたりしていますけど、本当に人によって感じることは様々ですね。

アーティスティックなものとして見たり、技術的なものとして見たり、哲学的なものとして見たり。

 

――日本でもぜひお願いしたいです。

 

来年はアジアツアーを予定しているので、機会があればそこで!

 

――今後も、楽器やパフォーマンスはどうグレードアップしていく予定ですか?

 

すでに、活動するために必要な楽器は揃っていますが、そのサウンドをより良くしたり、安定性のあるものにするために、品質を向上させていきたいとは思っています。

ピアノやバイオリンといった歴史のある楽器は、これまで何世紀もかけて発達してきたものですから、新しい楽器やその表現に対してできることは本当にたくさん、山ほどあるんです。

 

――楽しみです。やっぱり、まずは生で見てみたいと思いました。最後に、AquaSonicが考える新しい音楽、良い音楽ってどんなもの?

 

うーん、それはちょっとわかりません(笑)。

けれど、アーティストの視点で妥協をせずに、カタチにしたいものに対して誠実であり続けたり、そのために時間をかけたりすることが必要なんだと思います。たとえその進捗が遅れて、デッドラインを超え、プレミア公演を裏切ることになったとしてもです。

 

――思い切った発言です。ありがとうございました!

Licensed material used with permission by Between Music
Top image: © 2018 Charlotta de Miranda
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