柚子胡椒ソフトクリームと時空の旅。大分・日田温泉で、豆田そぞろ
“そぞろ歩き”とは、あてもなくぶらぶら歩き回ること。温泉街の散歩のことを言ったりもします。そぞろ歩きのポイントは、
ゆっくり歩くこと。
右左をよく見て、脇道を見落とさないこと。
気になった場所の入り口の前では立ち止まること。
その先をじっと見て、何も恐れず湧き上がった好奇心に身を委ねて吸い込まれること。
これです。
今回、そぞろ歩いたのは、大分県の日田温泉からほど近い、豆田町。豆田は、かつて幕府の直轄地として栄えた日田の歴史を感じる街。古き良き街並みが今でも残っています。ちょっと意外な日田名物を使ったソフトクリームを食べながら、そぞろ歩きます。
喉にイナズマ! な
“柚子胡椒ソフトクリーム”
「麦屋カフェ」
ペロリの瞬間、お口の中に広がるクリーミーな甘さ。と、思ったとたん、
ビリビリッ!シャーーーーン
な刺激が喉にやってくる、それが麦屋カフェの柚子胡椒ソフトなり。もちろん辛いの苦手な人でも大丈夫ですよ。感動をお伝えしたくて若干盛り気味に書いております。実際はピリピリと、ほんのり爽やかな刺激です。
柚子胡椒とソフトクリームというのもまた意外な組み合わせだなあ、ってね。思いますよね。店長さんが、日田のものを使ったメニューを作りたいと、津江のわさびや柚子、色々試してみた中で柚子胡椒が一番パンチがあって面白かったということで誕生したんだそうです。夏は他にも、日田の特産である梨をすり潰して作る梨ソフトなんかも登場するとか。
持ち手部分にもときめく仕掛け。コーンとカップとコロネが選べるけれど、オススメだというコロネを是非。一度油でさっと揚げているので、ほんのりと温められてソフトクリームがちょっと溶ける、つまりそれがパンに染み込む……という夢のようなことがことが起こります。
もっとおなかが減っているならカレーパンも。かじった瞬間、ちょっと叫びそうになりました。
チーズ出てくるからね!
もちろん店内で食べてもよし。テーブル席も座敷席もあって、インテリアもかわいいです。が、今回は散策用にテイクアウト。でも、帰りにお店の前で10秒だけストップを。
そして、ちょっと個性的な外壁に注目してみてください。日田で尊敬されるカリスマ左官職人さんの作品で、「団子壁」というのだそうですよ。この職人さんの手がける仕事は豆田をはじめ、日田の街のあちこちで見ることができるのですが、見かけるたびに壁マニアの同行スタッフが終始感動していたのも印象的でした。思わぬところで、「日田は職人の街」という言葉の意味を実感しつつ、私はこの壁を見た時、単純にこう思いました。「コッペパン……」。
「麦屋カフェ」
住所:大分県日田市豆田町9-2
TEL:0973-28-5582
営業時間:11:00〜17:00
定休日:木(祝日の場合は営業)
公式SNS:facebook
かつて人形遊びに夢中になった
私たちのための博物館
「日田醤油 雛御殿」
豆田にある老舗の醤油屋さん、日田醤油。170年以上変わらず受け継いできた、秘伝の製法で作られる味噌や醤油が並べられた店内を通り抜けた先に、雛御殿の入り口があります。
で、ここまで来た時に、絶対に思うんです。入り口の隙間からなんとなく見える中の様子から勝手に想像して、「ちょっとした展示なのかな?」って。「お客さんには、騙されたと思って入ってみて」って言うんですよ、と専務の中山さんは言っていたので、甘んじてお受けしましょう。入場料はたったの300円ですし。
ひとつ屋根の下、およそ4000体、見たことのないお雛様たちが、次々に現れます。まずは……。
座らないお雛様は見たことありますか?(もとい、座れない)
これは「立雛」といって、江戸時代になって庶民の間に広まった雛人形の始まりの形だとか(雛人形自体のルーツは縄文時代の土偶や古墳時代の埴輪などという説もあり)。
これは人面犬……ではなくて、昔お雛様と一緒に飾られた犬の置物。ちょっと奇妙な感じもしますが、縁起物や魔除け、厄除けとされたそうで、こうして残っているのは貴重なんだそうですよ。
そして、シルバニアファミリーやリカちゃん人形で遊んだ世代として、これには特に感動しました。「御殿雛」といって、京都御所に見立てた御殿とセットになったお雛様。かつてはこんなタイプも流行ったんだそうです。素敵。雛御殿では、他にもいろんなタイプの御殿雛を見ることができます。
それからもう一つ、それと並ぶくらいトキメいたものがあります。
これ。お雛様の髪飾り。
一部が取れたり、歪んだりはしているものの、こんなにジャラジャラでハデハデな髪飾りをつけたお雛様、初めて見ました。しかも一つ一つデザインが違う。うまく言えませんが、心の奥の何かをくすぐられます。
表情もよく見ると違いますよね。顔の形も丸かったり細かったり色々あるんですが、職人さんの好みかと思ったら、時代の流行りなどがあったんだとか。
もともと、幕府直轄の地・天領として日田が繁栄を極めた時代、豪商を中心に全国各地から取り寄せていた様々な雛人形は、その後、毎年「天領日田おひなまつり」という行事で飾られ披露されていましたが、祭りが終わるとほとんどが仕舞われていました。しかし、祭り以外の時期に来た観光客にも喜んでもらいたと言って、日田醤油の先代の社長が雛人形の常設を始めたのが、ここ雛御殿の始まり。
紹介した以外にも、圧巻の十段雛飾り、江戸時代の貴重な享保雛や有職雛、団子のような丸顔が特徴的な次郎左衛門雛などの古いものから、現代のキャラクター雛、2017年に惜しまれながら亡くなった人気節句人形工芸士・後藤由香子さんの貴重な作品まで、様々な雛人形に出会えます。雛人形を通して時空を旅する、そんな感じの場所。一見しただけでは想像できないほど、中は奥深めです。
下がり眉毛が絶妙な方もお待ちしておりますよ。こんな感じのね。
「日田醤油 雛御殿」
住所:大分県日田市豆田町13-6
TEL:080-4275-0898
営業時間:9:00〜17:00
定休日:元旦
公式HP:https://hitasyouyu.com/index.html
公式SNS:facebook、LINE
路地裏で出会った
日田工芸と日田グルメの伝道師
「Areas(エリアス)」
そういえば、日田が林業の町だっていうことは、「きこりめし」というお弁当と、このお店の店長・仙﨑さんとのおしゃべりで知りました。それと合わせて、日田はものづくりの町であり、ソファのような脚ものを中心とした家具の産地であることも。日田の職人の技術や地域の資源を、アイテムを通して知ってもらうための場所、それがこのお店です。
ちなみにエリアスに置いてある小鹿田焼は、なんだかポップでかわいいのですが、これはお店と職人さんとの特別コラボ商品。あまり見かけない釉薬のかけ方も、エリアスをイメージして施されたものなんだそうですよ。
日田はソファの産地であり、下駄の産地でもあります。そんなソファの端材を利用して、縫製をしている会社に余ったレザーの切れ端を縫い合わせてもらい、それを下駄屋さんに送って、合わせてもらったという商品がこれ。
レザーの下駄! 恐ろしくカッコいいです。
他にもお店には、物語の詰まった商品がたくさん並んでいますが、今後はみんなの満足度の高いものを作っていきたい、と仙崎さんは言います。自分も職人さんも、これいいね、これ作っていて面白いねっていうものは、職人さんも楽しんで作ってくれるからコンスタントにいいものができあがると。日田のものづくりとお店の役割について語る時、彼の眼差しは強くて頼もしいです。
が、今回の取材、仙﨑さんとのおしゃべりで一番盛り上がったのは、実は日田の美味しいものの話。「ここのあれが美味しいんですよ。梅ささみとか揚げ納豆とか。あ、あとあそこのね、もつ鍋も美味しいですよ。あとね、あそこの肉ごぼううどんもうまい。それに柚子胡椒をといて食べたらね……」なんてふうに。驚くなかれ、無邪気な笑顔で彼がオススメするお店のメニューは、どれも外しません。
一応改めて最後にお伝えしておくと、エリアスは「日田の職人の技術や地域の資源を、アイテムを通して知ってもらうためのお店」……なんですが、やっぱり日田の美味しいモノを探す時、非常に頼れる紹介所にも、なっちゃうのかも?
(※エリアスで見つけた素敵なお土産のご紹介は、お土産編へと続きます!)
「Areas(エリアス)」
住所:大分県日田市豆田町7-20
TEL:050-1048-7757
営業時間:9:30〜19:00
定休日:不定休
公式HP:http://www.hi-count.net/
公式SNS:Facebook
そして豆田の街を一望する
薬舗の展望楼へ…
「岩尾薬舗 日本丸館」
レトロな薬局屋さんだな〜と思って聞けば、ここは安政二(1855)年開業の薬屋さんで、建物は国の登録有形文化財になっているそうな。
建物の中はお薬も売っていますが、大半が歴史資料館になっていて、明治時代の薬品棚やレトロなパッケージの薬の数々、こんな不思議なマスクまで見られます。「封印ユーカリ吸入マスク」。なんだこれ?
怪しい……。
四方向に引き出しがついている調剤机、なんて、引き出しマニアにはたまらないものも置いてあってコーフンしました。他にも岩尾家の当時の愛用品、華やかな商家の暮らしぶりを垣間見ることもでき、木造四層三階建ての最上階は、展望楼になっています。日頃運動不足の方は若干ゼエゼエ言いますが、豆田の街並みや山並みを一望できるので、頑張って上ってみてもいいかもしれません。
さて、お店の名前にもなっている「日本丸(にほんがん)」ですが、それはこんな薬でした。
心臓と熱冷ましの特効薬。赤くて小さな粒は、日の丸をイメージしたとか、目立つような色にしたとか諸説あるそうですが、残念ながら、昭和40年代には原料の問題で製造中止に。90年以上の歴史に幕を閉じました。ちなみに原料は、牛、鹿、カモシカ、蛙、熊、真珠。これに人参などの薬草をブレンドして作られていたそうです。
開発者の岩尾家十五代・昭太郎は、商才に長けていたとかで、十六代と一緒に東京や大阪をはじめとした全国、はたまたソウルや満州まで販路を拡大。「九州で作っている良く効く薬ですよ」と言うと、よく問い合わせが来たとか。そうして大正、昭和の時代は爆発的な人気をよび、東京では、かつて三越にも置いてあったそうですよ。
残念ながら日本丸はもう買えないのですが、代わりにちょっと面白いお薬を見つけましたので、詳細はお土産編でご紹介したいと思います。300年前からあって、毎日飲んでも副作用がないと評判で、ストレスに囲まれて暮らす現代人にいいかもしれない、そんなお薬です。気になるでしょう〜。
さて、豆田エリアの魅力はまだまだご紹介しきれませんが、今回はこの辺で。楽しい日田温泉の旅となりますように。
「岩尾薬舗 日本丸館」
住所:大分県日田市豆田町4-15
TEL:0973-23-6101
営業時間:10:00〜16:00
定休日:不定休
公式HP:http://www.iwaoyakuho.com/