一期一会なフィッシュカレー@中目黒
スリランカ料理専門店「セイロン イン」のフィッシュカレーが、毎度同じ味でないことをいぶかる必要はない。なぜならポジティブな予定調和だから。
天候によって味が左右されるようなデリケートなものじゃないのに、素人目にもわかる大胆な差。ここにフィッシュカレーを推す理由がある。
「セイロン イン」
TEL:03-3716-0440
住所:目黒区上目黒2-7-8
営業時間:11:30〜14:30 (L.O.14:00)、17:30〜23:00 (L.O.22:00)
定休日:月曜ディナータイム、日曜ランチタイム
HP:http://ceyloninn.jp/
スパイスの調合と香りの抽出を
魚ごとに変えるカレー
「フィッシュカレー」1620円(税込)
結論から言えば、多様なスパイスを用いて魚特有の生臭さに対するアプローチを変えているから。
フィッシュカレーといえど、どの魚を使うかは仕入れ次第。同じ青魚でもメカジキやブリには低刺激の香辛料やココナッツミルクを加えたマイルドな仕上げを。写真のサバやカツオを用いるときは、メリハリの効くスパイスを用いる。さらにこれを炒って、香りや辛さを強調させているのだ。
魚が変わればスパイスも変わる。その調合や炒り具合にも緻密な計算式がある。見た目こそ艶やかさはないけれど、エキゾチックなスリランカの味にどっぷりハマるのはこのためだ。
ベースは同じで具材だけ変えたカレーとは明らかに一線を画す、具材に合わせたアプローチ。だから、額から流れる汗が目にしみる日もあれば、マイルドでやさしい味わいに面喰らう日もある。
チキン、マトン、ポークなど肉類カレーも炒ったスパイスを使うことで味や刺激の濃淡が変わるが、素材ありきを考えれば、やっぱり魚の変化がおもしろい。足繁く通ったものだけが知るこの仕掛け。専門店のフィッシュカレーは侮れない。
“魔法のふりかけ”が
旨みと辛さを増幅させる
「ポルサンボラ」1188円(税込)
辛いものが苦手だろうと、これも食べずに帰るわけにはいかない。料理のアクセントにも辛さの追撃にもなる「ポルサンボラ」。
ニンニクや玉ねぎなどの香味野菜にスパイスの香り、鰹節に近い風味はモルディブフィッシュによるもの、爽やかなライムの酸味、バシバシの唐辛子、そしてココナッツ。味と食感の決め手となるスリランカの生ふりかけだ。
日本人の感覚からすれば、ココナッツはデザートやお菓子に用いたり、前述のカレーに加えて味をマイルドにする甘いもの。でもポルサンボラはどうだ。香りこそココナッツだが、舌に突き刺さるような刺激。
このまま食べても十分すぎる酒のつまみ。スリランカ人はこれを薄焼きパンのロティにはさんだり、ライスに乗せてカレーとともに食す。シャリシャリの食感もクセになる。ただでさえスパイシーなサバのカレーにポルサンボラを合わせれば、異なる辛さのダブルパンチに身悶えるはず。
カレーのできあがりを待つ作法
ストリートなスナック類
「スナック盛り合わせ」1620円(税込)
カレー気分を増幅させる助走にしたいのが「スナック盛り合わせ」。乾杯のおともに、とりあえずの一皿としても満足度はこの上ない。スリランカの路上やカフェで小腹の足し感覚で売られている揚げ物が中心だ。
特筆すべきは、紅一点のカツオの煮込み(アンブレティヤル)。こちらも青魚特有の臭みを消し去るゴラカという木の実とスパイス使いが絶品。程よい酸味に食欲が増す。
スリランカ料理の老舗が
ワンプレートを提供しないワケ
コアなカレーファンのみならず、スリランカ人で店がいっぱいになる日も珍しくない。ただ、スパイスカレー人気の影響だろう。数種類のカレーやおかずを一皿に盛ったワンプレートを求める客も多いとオーナーシェフのアジ リヤナゲさんは言う。
「よく聞かれるんです。だけど、ウチはカレー屋じゃなくスリランカ料理の店。だからワンプレートはやりません」。
頑なに28年。スパイスカレーといえばインド料理店だった時代から、スリランカの味を守り続けてきたセイロン イン。どれだけ都内に専門店が増えようと、老舗は泰然自若だ。
混ぜて自分好みの味を生み出すのもスリランカの醍醐味。でも、毎度そればかりでは味気ない。単体の味わいを深ぼる楽しみが、この店にはある。