「ダッフルコートのボタン」が「ヘンなカタチ」の理由
冬物のアウター類のなかでも温かさとコーディネートのしやすさから性別や年齢問わず人気の「ダッフルコート」。
どことなくかわいらしい印象のダッフルコードですが、もともとは荒れ狂う北海の漁場で働く漁師たちが身につけていた現場仕様の本格防寒着であり、1900年代の前半にはイギリス海軍が甲板員の制服として採用していた歴史もある、じつにタフな背景をもつ洋服なんです。
そんなダッフルコートの特徴といえば、角(つの)のような形状のボタンとループで構成された「トグルボタン」を思い浮かべる人も多いと思いますが、あの特殊なボタンには、そんな海に生きる男たちの“命を守るための知恵”が詰め込まれていたんです──。
冬の海上での作業に手袋は欠かせません。
漁師にしろ兵士にしろ、海の男たちの仕事は肉体を酷使するシーンが多く、上がり切った体温を体外に逃すためには服の前立てを開けるのがもっとも手っ取り早い対策なのですが、手袋をしているためシャツについているような小さなボタンではうまくつかむことができません。
そこで編み出されたのが、手袋をしたままでもつかみやすいボタンとそれを通す輪からなる「トグルボタン」といわれているのですが、つねに落水の危険と隣り合わせの海上での仕事に従事する人たちにとっては、水に落ちた際、いかに厚手のコートを素早く脱げるかが生死の分かれ目だったこともあり、その実用性と安全性の高さから長きにわたって愛されたのでした。
ちなみに、現在では動物の角や木材をボタンにし、レザーの紐などをボタンループの素材に使用しているタイプをよく見かけますが、本来は船上でも修理ができるようにと、ボタン、紐ともに漁具で使われる木材や麻の一種であるジュートの荒縄を使用していたのだとか。
今では誰もが気軽に羽織えるアウターの代表格であるダッフルコートが、もとはマッチョな海の男のためのワークウエアだったなんて……ファッションの歴史って、本当におもしろいです。
※上記、諸説あり。