ジャケットの「一番下のボタン」を留めてはいけない理由
フォーマルスタイルの代名詞ともいえるアイテム、ジャケットやベスト。現在はカジュアルコーデや様々な着こなしが楽しまれていますが、長い歴史をもつアイテムだけに、その着方には多くのマナーが存在します。
そのひとつが「一番下のボタンは外して着る」というもの。
でも、なぜ留めるために付けられているボタンを、わざわざ外して着なければならないのでしょうか?
一説によると、一番下のボタンを外すのがマナーになったのは、1901年から1910年頃のフォーマルスタイル発祥の地・イギリスといわれています。
当時、イギリスは国王・エドワード7世の治世下にありました。エドワード7世は生涯で100人以上の女性と関係をもったといわれる名うてプレイボーイにして、皇太子時代からイギリス国内のみならず世界のセレブ界に影響力をもつファッションリーダーとして知られていました。
ちなみに、黒いジャケットとストライプのパンツ(コールズボン)のセット=ディレクターズスーツが格式高い礼服として広まったのもエドワード7世が着用したのがきっかけなのだとか。
そんなエドワード7世ですが、不摂生と放蕩がたたって太り気味。
スーツを着るとお腹が苦しいため、いつの頃からかジャケットの一番下のボタンを外して着るようになったそうです。
絶対的な権力をもち、ファッションへのこだわりも人一倍強かったエドワード7世に対して、それを注意できる人などいるはずもありません。それどころか、国王に恥をかかせまいと、周囲の人たちも国王にならってジャケットの一番下のボタンを外して着るようになるのですが……意外や意外、スーツのシルエットが美しく現れ、さばき(裾の動き)にもエレガントさが漂ったのでした。
その結果、「国王に敬意を払いつつ、見た目もよくなる着こなし」として、スーツやベストの一番下のボタンを外して着るのがマナーになったのだとか。
ちなみに、イギリス王室の周辺には「晩餐会の席で間違って手洗い用の水を飲んでしまった来賓に恥をかかせまいと、ヴィクトリア女王自らもフィンガーボールの水を飲んでみせた」など、紳士・淑女の国ならではの“相手への配慮や心遣い”を感じさせる逸話がたくさんあるので、興味のある人は調べてみるとおもしろいかもしれません。
※上記、諸説あり。