難民の人生を大きく変えた「ライフジャケット」そこに描いたものとは…

紛争や貧困に苦しむ中東やアフリカの国々から、ヨーロッパへと海を渡る人々。ひところに比べその数は減少したものの、難民流入と受け入れ問題で欧州全体が大きく揺れた2016年でした。祖国を追われ、危険な旅路を生き抜いて到着した後も、暴力や迫害を受けるケースは私たちも報道で知るところ。

ここに紹介するのは、国を超えての人道支援を呼びかける、ある啓蒙プロジェクトの様子です。難民となった彼らの人生を大きく変えた“ライフジャケット”が、「難民」という言葉の定義を改めて考えるきっかけを与えてくれます。

難民となる前、私たちはこんな人生だった

ヨーロッパ各国から20以上のNGOの支援を受けて、スイスの団体が始めた「ProjectLifeJacket(プロジェクト・ライフジャケット)」の活動を収めたのがこの動画。

内容は、シリアの紛争を逃れ、アナトリア半島からギリシャへと海を渡ってきた人々が生活する難民キャンプへと訪れ、彼らに難民となる前の暮らしぶりをインタビューしていきます。

いま、自分たちが置かれている状況と、彼らが口にする祖国での生活、その対比構図は動画を見る私たちにだって容易に想像がつくものかもしれません。けれど、それは同時に彼ら自身にも改めて大きなショックを与えるものとなりました。なぜならこのプロジェクトのキーアイテムとなる、ライフジャケットがそれを物語っているから。

ライフジャケットに描かれる人生の物語

このプロジェクトの趣旨は、難民としてキャンプ生活を送る人々から、当時の暮らしぶりを「聞く」だけでなく、その様子を彼らの生活を一変させた象徴的なアイコンである、ライフジャケットに「描く」ことなのです。

「家もあったし、しあわせな人生を過ごしていました」、「バスケットボールが趣味でよくみんなでプレイしていた」、「大学卒業後は教師を志し教員免許を取ろうとしていたところでした」、「コメディやドラマ好きでよくテレビを見ていた」…

数奇な運命に翻弄されながらも、祖国で過ごす在りし日の自分を語り始めた9人のシリア人。私たちの日常と何も変わらない人生がそこにあります。

 

大工仕事が自分の人生であり、魂だった。それなくしての生活なんてありえないよ

たとえばこのジャケットの主人公Ahmadは、シリア北部の町アレッポに暮らしていました。手先の器用な彼は、大工以外にも多くの仕事を手がけていたと語っています。建設用地での作業から日用品の修繕まで、誰にでも分け隔てなく持てるスキルを提供する、それがAhmadの日常だったそうです。

彼らにも、私たちと同じように
仕事があり、趣味があり、夢があった

ひと口に「難民」という言葉で片付けてしまうけれど、やむなく祖国を離れてくるその以前、彼らにだって私たちと同じように、家があり、普通の暮らしがあり、それぞれの人生を生きてきた。押し寄せる人々を前に、受け入れ批判や暴力に出るのではなく、人間としての尊厳を。とプロジェクト・ライフジャケットが強く呼びかける相手は、ヨーロッパ各国の政治家であり、メディアであり、市民一人ひとり。

けれど、9人が語るそれぞれの人生が描かれていく様子を見ていると、対岸の火事とただ傍観しているだけ?そんな声が聞こえてきそうな気さえしてきます。

Remember Who They Are.

「難民」こう呼ばれる人たち1人ひとりのフルストーリーが、それぞれのライフジャケットとともにこちらのサイトで伺い知ることができます。

Licensed material used with permission by Nathalie Eggen
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。