「しあわせの運び屋」と讃えられる男性が、密輸してでも祖国シリアに届けたいもの
2011年より続くシリアの内戦は、すでに5年9か月。出口の見えない迷宮のような日々に怯えながら今日を生きる子どもたちがいます。そんな彼らにほんのひとときだけでも笑顔を取り戻してほしい、と瓦礫を乗り越えて「おもちゃ」を届ける男性を知っていますか。
封鎖された国境を越えて
届けたい「おもちゃ」がある
シリア北部の町アレッポに生まれ、1989年よりフィンランドに暮らすRami Adhamさんが、祖国の悲惨な現状に立ち上がったのは4年前のこと。
有志とともにトルコから、支援物資を故郷アレッポまで運んできました。重さにして80キロにもなる物資を数人で分担し、国境を歩いて越える彼らが運び届けるものは、食料、医療品、そして大量のおもちゃ。
死と隣り合わせの子どもたちに
本当に必要なものとは?
隣国との国境が封鎖されてからも、この2年間じつに28回にわたり、彼らは国境を越え活動を続けてきました。こうして、Remiさんが密かに運んだおもちゃの総数はのべ1,000以上。それが混迷の続くシリアに暮らす子どもたちの手に直接手渡されてきたのです。
じつは彼自身も6人の子どもを養う父親。なのに貯金を切り崩し、生活費をおもちゃや旅費に代えて、活動を続けてきました。
「まさにこの瞬間も死と隣り合わせ。そんなシリアの子どもたちにとって、おもちゃがどれほど重要な意味を持っているか想像できるかい?誰もぼくの活動を止める権利なんてないよ」。
12日間におよぶ支援活動を終えたばかりのRamiさんが、「The Telegraph」の取材に応えました。
子どもたちが手にするおもちゃは、ぬぐいきれない不安のなかで、わずかばかりのやすらぎを与えてくれるに違いない。写真からにじみ出る無邪気な表情に、Remiさんの尊い活動の意味を教えられた気がしました。
あるじを失ったおもちゃたち
アレッポの反政府勢力が掌握する地域に対し、ロシア軍機による空爆が再開されたのは今月11日のこと。同日、Remiさんは爆心地近くの建物の中から一枚の写真をFacebookに投稿しました。そこには、この場所で少なくとも46人以上が犠牲になった事実を伝えるコメントが。
瓦礫の中にたたずむおもちゃを前に、彼の胸中を察することすら難しく思えてなりません。それでもRamiさんは背中におもちゃを抱え、ひっそりと国境を超えます。
「いくら国境が封鎖されようが関係ないよ。これが唯一ぼくが故郷にかえる理由だから」、と。
それでも、
“しあわせの運び屋”は前を向く
いつからか、「Joy Smuggler(しあわせの運び屋)」の愛称で呼ばれるようになったRamiさん。彼のように、祖国を離れたシリア国民やゆかりのある人々による草の根の支援活動は、いまもSNSを通じて世界に拡散し続けています。
ありのままを伝えれば、RamiさんのFacebookには立ち上る火炎から必死で逃れる人々の姿もあれば、粉々になった瓦礫に押しつぶされた子どもの屍体も登場します。大人に抱えられながら、だらんと手足が垂れた少年はまるでピエタ像のよう。
目を覆いたくなるような場面。でもそこにあるのが現実。こうしたことを想像することだって、私たちにできることのひとつかもしれません。