元プロ野球選手のセカンドキャリア「クリケット・山本武白志」

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──19歳以下の日本代表が来年1月に南アフリカで開催されるワールドカップの出場権を獲得しました。

 

レベルは相当高いと思いますよ。クリケットをやっていない人たちは、彼らのすごさをわかってないんじゃないかなと。だからワールドカップで活躍して、わからせてほしいなって思いますね。

 

──上の世代も含めて、ワールドカップ出場は日本で初めて。歴史の扉を開きました。

 

間違いなく誇りに思っていいことだと思います。あの選手たちは初出場のメンバーということで、日本でずっと名前が残るわけですから。いくら日本でメジャーじゃないとはいえ、ワールドカップにはずっと出られてなかったわけなので、今回の出場権獲得は自信にしていいことだと思います。

 

──聞きずらいんですが、どうしても聞きたいことがあるんです。元プロ野球選手」の肩書きやプライドって絶対にあると思うんですが、それらが邪魔になることってありませんか?

 

そもそも、プライドなんて一切ないですよ。だって違うスポーツですし。

 

──プロ野球の世界で活躍することを思い描いていたと思うんですが、今はまったく違う生活になっている。

 

僕としては「山本武白志って昔はプロ野球選手だったらしいよ」って言われるようになるのが理想、願望です。別に「元プロ野球選手」なんて肩書きは消えてもいい。そこにはなんの執着心もありません。

「甲子園の倍の歓声がくると思うと、もう最高」

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──なるほど。将来はやっぱり海外でプレーしたい?

 

一番最初に協会の方と話しをした時に「佐野でしっかり半年練習して、10月からオーストラリアに拠点を移す」というプランを立てました。今は向こうでやるための土台作り。すごく順調にきてると思いますよ。

 

──「順調にきてる」というのは具体的にどういったところ?素人からすると、競技を始めて半年で海外に行くなんて想像のできない世界で。

 

3月に向こうで初めて練習した時に、英語のアドバイスがまったくわからなくて、いきなりこっちでやるのは無理だなって思った。だからクリケットだけじゃなく、少しずつ英語も勉強しています。

協会の方はすごく英語が堪能で、外国人のコーチもいる。勉強っていうよりは、話すことで自然と上達してるって感じですが。

 

──海外への憧れがあったくらいだから、英語に対して苦手意識はない?

 

高校時代の成績はあまりよくなかったけど(笑)、それとはまた別物だと思うんですよね。向こうに行けば英語しか使わないから、自然と話せるようになると思う。それも楽しみのひとつですね。

 

──自身が活躍することで、クリケットを日本にもっと広めたいという思いは?

 

有名な選手がひとり出るだけで全然変わってくると思う。19歳以下の選手たちがワールドカップで勝つことで盛り上がる可能性も全然あると思うし。まあ、これからやっていく人たち次第じゃないですか。もちろん自分も含めて。

 

──10年後の自身のイメージって?

 

海外でプロになっていたい。

 

──海外のクリケット人気って、日本人が想像するよりはるかにすごいんでしょうね。

 

スタジアムに10万人くらい入るらしいですからね。

 

──10万人の前でのプレーは、さすがに緊張するのでは?

 

いや、全然しないと思いますね。嬉しくてわくわくする。

これまでの一番の大観衆は甲子園の5万人。緊張ではなく、力が入って楽しいですよ。大観衆でナーバスになったことは一度もないです。

 

──その甲子園の倍の観衆が集まる。

 

もしスーパープレーをしたら、あの倍の歓声がくるんですよね。もう最高。わくわくしますよ。

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そして9月末、山本武白志はオーストラリアへと旅立った。

ブリスベンのクラブチームに入団することは決まっているが、プロ契約を勝ち取れるかどうかは活躍次第。奇しくも4年前と同じシチュエーションだ。

決して強がりではなく、気持ちはもう完全に切り替わっている。後ろなんて振り返ってる場合じゃない。

「元プロ野球選手のプライドなんてない」と言い切った男は、クリケットの世界で“あの夏”を超える快感を渇望している。

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TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。