ジョナ・レイダーは、日本人が注目するべき料理人だ!
SNSやテレビでも話題になった富士山の麓で開催された「KAWS:HOLIDAY JAPAN」で、グリルドチーズサンドウィッチを販売していたポップアップストア「Melty Man」。
その仕掛け人が、ジョナ・レイダーです。
爽やかな好青年という言葉が似合う25歳の料理人は、ニューヨークではかなりの知名度。学生時代に料理が好きで友だちにご飯を振舞っていたところ、校内紙に取り上げられたことがきっかけで、「ニューヨーク・タイムズ」や「ウォール・ストリート・ジャーナル」、「ニューヨーカー」などの大手メディアの取材を受けるように。一時は予約が4000人待ちになったことも!
現在、ジョナはブルックリンの豪華なタウンハウスの一室でソーシャルダイニング「Pith」を営業をしています。そして、2019年の秋頃には東京に「Melty Man」を上陸させる予定もあるんです。
──料理をはじめたのはいつ?
小さい頃からだね。家族のみんなが料理好きで、一緒にやることが多かったかな。でも、子どもの頃の夢はジャズミュージシャンかエコノミストだった。
コロンビア大学に進学してからは、経済学を勉強して、趣味として楽器を演奏していたけど、どうしても違和感があって。そこに深い理由はないんだけど、ただ自分に熱量がなかった。成功する予感もなかったし、ずっと耐えられる自信もなかった。
その頃から料理に費やす時間が多くなっていったんだよね。もちろん、今みたいに料理人として生きていけるなんて思ったことはなかったけど。
──ところが、いまや世界中から注目される料理人に。
一緒に作ると安くなるからという理由で、寮で友だちに料理を振舞っていただけ。そうしたら、いつのまにかメディアの取材が来るようになって。
最初は「学生寮の料理人」という言葉のおかげで、たくさんの人が興味を持ってくれた。それはそれで嬉しかったけど、少しずつ「とても美味しい料理をありがとう」「楽しい空間でした」というお礼をもらえるようになったことがすごく嬉しくて。
料理人としてチャレンジしてみようと思える自信がついたんだ。
でも、いろんなことをやっていくうちに、レストランを持つことが夢ではないと気づいた。確かに美味しいことは認めるけど、どんな高級レストランで料理を食べても、自分の中で本当に“喜び”を感じていなかった。
──それはなぜ?
レストランが階級的なんだよね。ホスピタリティーを提供する側とお金を払う側に上下関係がある。どんなにいいサービスでもチップを要求されると利害関係を感じてしまうんだ。
しかも、料理を出されるだけという一方的なコミュニケーション。同じ空間にたくさんの人がいても、隣の席に座っている人と友だちになる可能性なんて、本当にわずかしかない。
だから、レストランにはないホスピタリティーを提供したいと思った。
──ジョナの考えるホスピタリティーを体験できるのが、ソーシャルダイニング「Pith」のである、と。
そう。
僕は料理にこだわりすぎないようにしている。最高級食材を使うのもいいけど、サーブの仕方やお皿の選び方も意識したい。料理を食べる空間も楽しんでほしいんだ。
他にも、流す音楽や机に置く花でも雰囲気は変わる。誰かに手紙を書いたり、一緒に本を読んだりする時間があってもいいと思っている。そうすることで、ゲストたちが友だちになるんだ。
ちなみに、今の彼女とは「Pith」で出会ったんだよ(笑)。
──お話していて、いわゆる“料理人”という感じがしない。
料理人と名乗ることもあるけど、本当はホストに近いかもしれないね。友だちを家に呼んだりして、パーティーを開くのが楽しくてしょうがないんだ。
今の一番の褒め言葉は「私もホームパーティーをやってみたいと思った!」だよ。料理に関することじゃないんだ。
あと、自分自身をシェフじゃないと思っている。ちゃんとした料理学校に通っていないし、正しい調理方法などを勉強していからね。シェフに対するリスペクトは人一倍あるよ。
でも、本当にリスペクトしているのは僕に料理を教えてくれたお母さんなんだ。一番影響を受けている。
──例えば、どんな料理?
ミートローフやラザニアかな〜。家族の一部はユダヤ系だから、その伝統料理をアレンジしたようなものが多かった。
今でもサンクスギビングデーで一緒に料理をすることがあるんだけど、めちゃくちゃ緊張するんだよ(笑)。「Pith」にどんなお客さんが来ても不安になることはないのに、お母さんと一緒だと、いろんなことを考えちゃう。
──料理の先生はお母さん(笑)。
自分でもおかしいなと思っているよ(笑)。
だからなのか、いろんな人が思い入れのある味みたいなのが気になるんだ。例えば、「静岡に住んでいた時におばあちゃんが毎日作ってくれた朝ごはん」とかね。
ガイドブックに載っている「◯◯なレストランBEST10」とか、確かに知って損はない情報だけど、ワクワクしない。本当にその場所に行ってみたいとは思えない。
街中にある有名じゃない焼き鳥屋でも、何かストーリーがあるなら、そっちの方が気になるかな。
──じつはニューヨークで一番イケてるレストランを聞こうと思っていたんだけど、その質問は意味がなさそうだね。
そうだと思う。
気づいてくれたから言うけど、僕は「どのレストランが一番か?」という類の質問が嫌いなんだ。だって、名前を出して説明をしても、本当にオススメをする理由が伝えられないし、もっと言えば、友だちや家族を連れて行くことを考えたら、その答えは変わってくるから。
たった5ドルでピザを売っているお店でも、時によっては最高のレストランになる可能性がある。無名でもいいんだ。
──じゃあ、質問内容を変えよう(笑)。実際に足を運んだレストランで気にかけることは?
お客さんたちがどのようなコミュニケーションをとっているかに注目しているかな。
そういう意味では、日本の居酒屋や寿司屋はすごく魅力的で。席の間隔が狭いから、お互いを気にかける精神があって、お客さん同士が話し始めることもある。アメリカの高級レストランでは、あまり見かけないね。
こうやって、常に「Pith」をアップデートしていくために、自分が行った場所から何かしらのヒントを探しているよ。
──他にも日本で参考になるような場所はあった?
豊洲の魚市場や静岡の農場。セブンイレブンに売っていた100円のお菓子もいい感じだった。
あとは、日本では普通だろうけど、ひとつのお皿に料理を盛って、それをみんなでシェアするのは素晴らしいよ。自然と会話が生まれるからね。
──メニューを決める際、どんなことを意識しています?
振り返って考えてみると、育ってきた環境や今いる場所にかなり影響されているかな。
家族のみんなで食事をした時に楽しいと思ったら、食材から空間までを改めて分析して、真似をできる部分は真似している。
あとは自分自身を信じること。いいと思ったら、全力でそれをやるんだ。
──自分を信じて料理をつくる!?
全ての人はクリエイティブだと心の底から思っていて、そうではないと感じている人は自信がないことに原因がある気がする。
どこでも刺激は受けられるし、そこらへんにアイデアのヒントに転がっている。境目は、いいと感じたことを信じ続けて、やり切れるかどうか。
自分の直感を大切にするとも言えるかもしれないね。
──KAWSのイベントでは、グリルドチーズサンドウィッチがメニューだったけど……。
決して新しいアイデアではないとは十分承知の上で、今一緒にいろんな企画を考えているパートナーたちと、アメリカ料理を日本に広めたいと真剣に考えていて。
「よし!グリルドチーズサンドウィッチだ!」ってなったんだ(笑)。
直感で決めた部分もあるから深い理由は言えないけど、大人が食べたら子どもの頃を思い出せたりする要素が決め手かな。子どもに人気があることもいいよね。
で、2〜3ヵ月前には北海道の農場に行って、使うチーズをしっかりと選んだよ。長〜く伸びるチーズをね。
──わざわざ北海道まで行ったの?
KAWSのイベントで一緒にお店をやった日本人の友だちが教えてくれた。自分でも実際に足を運んだから、農家の人とも話ができたよ。
これが今回の企画のいいところで、日本の食材をアメリカ料理のレシピで作っている。うまくマッシュアップができていると思う。
ちなみに、「Melty Man」はこれで終わりではなくて、東京進出も考えているんだ。
──おお!それは楽しみ。
うん。詳しいことは今は話せないけど、今年の秋くらいに東京で店舗を出すのは決まっている。
──9月や10月くらいにはオープンする?
ごめん、そこは言えないんだ。
今は、日本のチームが店舗を出す場所や内装を決めながら、アメリカのチームがメニューを考えている。頻繁に話し合いをしているから、非常にいい関係を築けているよ。
──メニューだけでも知りたい(笑)。ちょっとだけ、話せる範囲でいいから!
分かった(笑)。
シンプルなグリルドチーズサンドウィッチはもちろん、チリソースで味付けをしたチャーシューを入れるメニューも考えている。で、実際に使うパンとチーズは北海道のものを使う予定なんだ。
デザートはブリオッシュみたいなのを作るから、今は抹茶を使ったフレーバーを考えている。
かなり順調に進んでいるから、たくさんの人に楽しんでもらえる自信がある。
あとは、東京で成功したらアジア進出の可能性も出てくるかな。絶対に成し遂げたいと思っているよ。
──僕らもとても楽しみです。
あ、言い忘れていたけど、あくまでも最大の楽しみは自分で料理を作って、自分なりのホスピタリティーを表現することだよ。もちろん、東京進出はワクワクするけど。
今住んでいるニューヨークシティと東京はとっても似ている。たくさんの人が狭いアパートに暮らしていたり、料理をする時間が減っていたり、いくつもの共通点がある。そんな場所だからこそ、「Pith」のようなソーシャルダイニングが広がる可能性があると思うんだ。
「Melty Man」だけでなく「Pith」も東京に進出させたい。そして、僕の料理とホスピタリティーが人と人をつなげて、コミュニティをつくって、暮らしを豊かにできるようにしたいな。