フローティング・ポインツが語る「日本のこと」「自身のルーツ」「『Crush』のテーマ」

10月18日、ついにFloating Points(フローティング・ポインツ)のニューアルバム『Crush』が発売された。サミュエル・シェパードがクリエイトする音楽は、ダンスミュージックにカテゴライズされるものだけど(実際に踊れるし)、それ以上の魅力があると思う。とっても知的で洗練されていて、クレイジーでもある。

それはサム自身のパーソナルな部分が関係しているのかもしれない。電子音楽家であり、DJであり、彼は神経科学のサイエンティストであり、そして陽気でおしゃべりな人でもあります(音だけ聞いてると寡黙な人だと思うよね?)。つまり、とても興味深い人物だ。

サマーソニック出演のために来日していたフローティング・ポインツことサミュエル・シェパードにインタビュー!

「日本でのライブは、他の国と違う」
〜サマーソニックを終えて〜

ベン

サマーソニックの出演、お疲れ様!フェス自体の感想から聞きたいな。

サム

最高だった。めちゃくちゃいいイベントだったよ、とくにサカナクションが印象に残ってる。

何について歌っているのかわからないブラジルの曲を聞くときみたいに、歌詞が全く理解できない曲聞くのは僕にとってエキサイティングなことなんだ。

ただ、周囲の日本人に聞いてみたんだけど、サカナクションの歌詞はすごくいいらしいね。難解というより、意味が深いってみんなが言っているのを聞いて、より興味を持ったよ。ベンは日本語ができるんだよね?どう思う?

ベン

う〜ん、サカナクションの歌詞の意味をここで説明するのは難しいな(笑)。だけど、たしかに歌詞がわかると、より魅力的なバンドであることは間違いないよ。

サム

そうだよね(笑)。とにかく彼らのライブを見られたことがサマーソニックでの一番の思い出になってる。一郎(サカナクション・山口一郎)と僕は、お互いの音楽を評価し合っていて、とてもいい関係だしね。

ベン

僕もサマーソニックではたくさんのライブを楽しんだんだけど、フローティング・ポインツに関しては、前にイギリスで見た時と印象が違ったんだ。実家の近くの公園(ブロックウェル・パーク)でやってたSunfall Festivalって覚えてる?

その時より昨日のサマーソニックのほうが、ハッピーな空気を感じた。やっぱり国やフェスによってライブの雰囲気って変わるよね。

サム

うん、一般的にライブではみんながひとつになると思う。

音楽があれば世界中のどこでもそれは同じで、音楽にはそういう力があると思うんだ。それは僕が音楽が好きな理由で、クラブでプレイすることのモチベーションになっているんだ。だからこそ、まったく違う文化の国や地域でも僕がプレイできるんだ。

そのなかでも、日本は他の国と違うところがひとつあって、「気配り」だよ。まあ、この言葉で合っているかはわからないけど……たとえば、サカナクションのようなバンドセットのライブでは、曲と曲の間に全員がシーンと静まりかえる瞬間がある。そういうところが日本ならではって感じがするんだよね。

ベンならほかの誰よりもそれが理解できると思うけど。

ベン

わかる!日本のライブはちょっと雰囲気が違う。あと、観客のダンスもすごいよね。

サム

本当にあれはすごい!

一体感があって、みんなが参加できる空間になってるよね。ベンがみてくれたSunfall festivalなど、イギリスのフェスはとにかく騒がしい。大混雑の中でみんなどこでも用を足しちゃうし(笑)。

一方、日本はすごくみんなが友好的だし集団での意識が素晴らしいと思う。

今回のサマーソニックでは、サカナクションが終わった後が僕のライブだったんだけど、ステージが80mほど離れていたんだ。だから、僕のステージの最初の曲では観客は1000人ぐらいだったんだ。ステージのサイズを考えると少ないよね。

ところが、僕が最初のビートを鳴らした瞬間、観客が一斉に「Yeah!」って盛り上がってくれた。日本では観客がアーティストを盛り上げてくれる。イギリスやそのほかの国では逆だよね。アーティストが観客を盛り上げる(笑)。

実際には1000人ぐらいだったと思うけど、ステージ上の僕は7000人の前でプレイしている気分だったよ。

© 2019 NEW STANDARD
ベン

ちなみに、サムはフェス、クラブ、ライブハウス、どこでプレイするのが一番好き?

サム

どれも好きだよ。どこでやってもそれぞれがすごく楽しい。

DJは音楽に対する愛をみんなで共有できるから好きだし、演奏することも好きだ。ライブが大好きなんだ。

僕のショーでの演奏ではいつもドラムマシーンを使ったりして曲の最中で方向転換したりする。そういう即興が好きなんだよね。

「2000年初頭のマンチェスターで育ったからこそ、フリージャズに出会えたと思う」
〜フローティング・ポインツのルーツ〜

ベン

もっとパーソナルな話も聞きたいな。サムは何がきっかけでミュージシャンになろうと思ったの?

サム

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン (UCL) で博士号を取るために5年間勉強していたんだけど、その時になんとなく曲作りもやっていたんだ。多分、音楽制作の楽しみが少しずつ僕の中で芽生えていったんだと思う。

無事、博士号を取得してからも曲を書いていたんだけど、そしたらトントン拍子にことが進んで、フローティング・ポインツの最初のアルバム『Elaenia』が完成したんだ。きっと学校のことがなくなった分、曲を書くということがカタルシスになっていたんだと思うよ。

ベン

僕がサムをすごいと思うのは、DJやプロデュースワーク、演奏技術なんかはもちろんなんだけど、Floating Points Ensemble(フローティング・ポインツ・アンサンブル)というオーケストラも率いていること。

つまり、エレクトロニックミュージックのアーティストの枠を飛び越えた活動をしているのが興味深い。

サム

フローティング・ポインツ・アンサンブルのメンバー数人は、マンチェスターのチェサムズ音楽学校で一緒だったんだ。そうそう、僕はUCLに入る前は音楽学校にも通ってたんだよ!

そこの仲間とは定期的に連絡をとっていて、UCL在学中も一緒にバンドのリハーサルなんかをやってた。その頃「ヴィオラが必要だ!」ってなると、演奏者同士のつながりでヴィオリストを探してきてもらったり……そういうことが続いて、今では大きなネットワークとなった。それがフローティング・ポインツ・アンサンブルのはじまりなんだ。

だから最初はただ音楽を演奏したかっただけ。すべてはそこから。自然にできあがっていったんだ。

ベン

音楽の趣味も幅広いよね?

ベルリンのクラブでは、ファラオ・サンダースのレコードまでプレイしたって聞いたけど、フローティング・ポインツには間違いなくフリージャズの要素があると思うんだ。だけど、不思議なのはサムの年齢的にフリージャズにどうやって興味を持ったのか。だって、フリージャズが盛んだったのは1960年代のことだから。

サム

昔はビル・エバンスとかのジャズにハマっていたんだよ。

というのも、僕が子どもの頃、親父たちはみんな古いレコードのコレクションを売ってCDに買い替えていた。だけど、僕ら子どもの小遣いじゃ16ポンドのCDなんて買えやしない。ところが、2000年代初頭のマンチェスターではレコードなら0.5ポンドで買えたんだ。

当時はマンチェスターが掘り出し物のレコードが見つかる街として有名だなんて知らなかった。でも、それが一番安く音楽に触れられる方法だってことはわかっていた。そういう環境があってレコードフリークになったんだ。マンチェスターという場所、そして00年代初めという時代だったから、レコードを通じてフリージャズやいろんな音楽に触れられたんだと思う。アーチー・シェップやチャールズ・グリーンリーのレコードなんて数ポンドだった。僕は彼らが誰かなんて知らないけど買い漁ってたよ。今なら4500ポンドはするだろうね。

当時の僕が何を目指していたかはわからないけれど、素晴らしい音楽たちに触れていたことは間違いない。そういうレコードショップでずっと過ごしてた。休日はもちろん、毎日ランチの時間も通い詰めていたよ。

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ベン

東京もレコードが豊富に揃う街だけど、まわってみた?

サム

うん。っていうか、これからまわるところだよ。東京のレコードはすごいよね。たくさん買うためにレコードバッグも持ってきた(笑)。

ベン

今回はライブのためだったけど、プライベートでも日本に来てるって聞いたよ。

サム

じつはそうなんだ。日本各地を何ヶ月かけて旅したことがあるんだよ。

なかでも気に入ったのは、石垣島かな。文化、食べ物がまったく異なるという意味で、ヨーロッパの人が訪れるには最高の旅行先だと思う。僕はソーキそばが気に入ったよ。

あとは札幌。札幌のプレシャスホールは僕にとって世界最高のクラブのひとつだ。オーナーのサトルさんを知ってる?彼は天才だよ。完璧を求めて細部にまで気を配っている。プレシャスホールで演奏できたことは僕の誇りだよ。

「Pitchforkに苦情の手紙を書いてくれる(笑)?」
〜ニューアルバム『Crush』について〜

ベン

新しいアルバム『Crush』についても話しましょう。

僕は一足先に聞かせてもらったんだけど……素晴らしかった!驚いたことにこの大傑作『Crush』をたったの5週間で完成させたんだって?

サム

自分でもすごいスピードだと思う。

ただやってみたら形になったってだけなんだけど……。レコード会社から「いつ作ったの?」って聞かれてはじめて気づいたぐらいだよ。「ちょっと待って、僕はこれを5週間で作ったのか!」って(笑)。

きっと今回は音楽制作の邪魔になることが少なかったんだね。じつは、小さなヒラメキは毎日のようにあってそれを積み重ねて曲が完成するっていうのは、いつもと同じだから。ただ、この方法はすごく体力がいるんだ。4年間のアイデアを出し続けてやっと曲が完成することもあるしね。

ベン

今回のアルバムで特徴的な部分を挙げるとしたら?

サム

このアルバムでは、Rhodes Chroma (ローズ・クローマ)というシンセサイザーを多用していることかな。

このシンセはプリセットされている音が素晴らしいんだけど、僕は全部のプリセットを消して、オリジナルな音をクローマに組み込んだんだ。この作業が一番大変だった。曲が完成するまではあっという間だったけど、それを構成するサウンドを作るのに時間をかけたんだ。

ベン

なるほど、僕らは『Crush』の音の響き自体に注意して聞くと、より発見があるかもしれないね。

レコーディングでは新しいシンセサイザーではなく、70〜80年代のシンセを使うのが好きなのかな?

サム

現代のシンセももちろん好きだよ。

新しいシンセもレコードの中で使っている。ただ新しいシンセのなかには、アナログシンセっぽい音を目指しているのに、デジタルなフィルター入っているものがあって、あれはすごくイヤ!超カッコ悪い(笑)。アナログって言っておいて、デジタルコントロールが入っているなんて。

思うに、人間は“歪み”が好きなんだよ。そう、僕たちは“歪み”が大好きだと思う。

ベン

神経科学者っぽい分析だね。たしかに歪みは音楽の大事な要素かもしれない。クリアだからいいってわけじゃない。

サム

なぜ人は歪みに惹かれるのか?その答えはきっと倍音にあって、その音たちがどう強調されるかが鍵だと思うんだ

だから、僕はいろんなシンセサイザーを使ってみて、自分なりにそういう音を作っているんだ。ただ、シンセの買いすぎには注意が必要だ(笑)。

ベン

アルバムに話を戻そうか。

僕は最初の曲『Falaise』がお気に入りなんだ。静けさからどんどん音が入り混んできて、どんどん音を飲み込んでいく……音が湧き上がってくるような感じがアルバム全体のトーンになっていると思った。何か意識したテーマとかはあるのかな?

サム

今、ベンが言ってくれた通りで、湧き上がる感情みたいなのがあると思う。そして、その感情はかなりタフなものだよ。

具体的に言うと、イギリスや世界で起こっている政治的挫折が関係している。現代は馬鹿な奴らが勝っている世の中だと僕は思っているからね。

ベン

政治的な話は……僕たちイギリス人が今直面しているよね。その話題は避けたい気もするよ。

サム

うん、わかるよ。けれど、ブラジルの首相やイタリアの極右翼、そしてイギリスのニュースなんかを見ていると「マジかよ!?」ってなるよね。

ベンは僕と同世代だよね?僕らが大学生の頃、ボリス・ジョンソンはロンドン市長だった。あの頃、誰がジョンソンがイギリスの首相になるなんて想像できたろう。

ベン

僕もジョンソンが首相になるなんて、今でも信じられない……。

サム

何が起こるかわからないよね。

とにかく、今回のアルバムには僕の内側に込められたやるせなさみたいなのがあるんだ。

僕自身、以前よりも政治に関心も持つようになって、イギリスの“古い政治”に敏感になっているし、僕だけでなくいろんな場所でそうなっていると思うよ。だから、今の僕の音楽には、不満、悲しみ、そして少しの希望が込められている。

大事なのは希望だよ。これがなかったら何も残らないし、今だからこそ希望を持つべきだと思ってるよ。

ベン

そのポジティブなバイブスは『Crush』を聞いて僕も感じたよ。

このアルバムは、間違いなく今年のトップアルバム。もしも、Pitchforkがベスト・ニュー・ミュージックに選ばなかったら……。

サム

苦情の手紙でも書いてくれる?

ベン

もちろん、書くよ(笑)。それぐらい良いアルバムだったから!

©2019 NEW STANDARD

フローティング・ポインツの『Crush』とMVは絶対にチェックしたほうがいいよ!

インタビューでも触れている通り、個人的に『Crush』は「アルバム・オブ・ザ・イヤー」決定!とくにアトモスフィアがある電子音楽が好きな人、絶対に聞いてみて。また、フローティング・ポインツとよくコラボしているバルセロナのスタジオ「HAMILL INDUSTRIES」によるめちゃくちゃカッコイイMVも必見だ。

Top image: © 2019 NEW STANDARD
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