「スタンドアップコメディは日本で絶対に流行りますよ!」おコメディ焼き代表・BJ Fox
「おコメディ焼き」は、日本で定期的にスタンドアップコメディの公演を主催しているイギリス人とオランダ人とアメリカ人によるグループだ。もちろん、一人ひとりが笑いをかっさらうスタンドアップコメディアンでもある。日本語でネタを披露することも!
その代表はNHKドラマ『Home Sweet Tokyo』で脚本と主演も務めているBJ Foxさん。
「スタンドアップコメディについて教えてください」とお願いをしてみたら、彼は「もちろんです。これは絶対に日本で流行りますよ」と言い切った。
僕が期待していた以上の答えだったが、その自信たっぷりな様子から「なんでだろう?」という疑問が湧いてきたので、どんどんと質問をぶつけてみた。
結論、真面目にスタンドアップコメディについて教えてくれたし、論理的にそれが流行るだろう理由を説明してくれた。
「僕らはスタートアップのように
トライ&エラーを繰り返している」
──「おコメディ焼き」、スゴくいい名前ですね。
どうもありがとうございます。
でも、Googleで検索をしたら「もしかして:お好み焼き」と出てきちゃう。しかも、ひらがなとカタカナと漢字があるでしょ? 外国人にとっては、踏んだり蹴ったり。本当に大変。
──声に出したくなりますよね、「おコメディ焼き」って。何回も言いたくなっちゃう。
日本に5年くらい住んでるけど、あまり、そこまで言ってくれる人いない。で、外国人コメディアンたちからは、文句を言われる(笑)。
でも、その裏にちゃんと意味があって。
「お好み焼き」にかけてるのは分かると思うけど、「お好み焼き」は好きに材料をミックスするでしょ? それと同じようにおコメディ焼きでは、いろんなスタイル、いろんな人、いろんな国、人種などをミックスして、最終的にユニークな味にすることを目指している。
──そうなんですね。BJさんは、なんでスタンドアップコメディアンに?
当時はシンガポールに住んでいて。ロックスター・ゲームスの『マックスペイン3』というゲームを、広報みたいな感じで記者の人たちに説明していた。その時に知り合ったシンガポールのエスクァイアの編集長にライブに行こうと誘われて、それをやってみたいと思った。
──それというのがスタンドアップコメディのこと?
そうそう。
なんでやってみたいのかというと、僕はイギリスに住んでいた時にSF的なコミックの企画を考えて、出版していた。アイデアから出版まで、とても時間がかかって、1年くらいかかるのかな。本が手元に来た時はスゴく嬉しいんだけど、その体験をするのはまた1年後になっちゃう。
スタンドアップは、中央線に乗っている時にライブで何を言うのかを考えて、それをやって、すぐにフィードバックをもらえる。じゃ、こっちの方がいいなと思った。
──意外。誰かを笑わせたいという想いが、ずっとBJさんにあったのかと勘違いしていました。
テレビも同じだけど、いろんなアイデアを出し合って、みんなで作り上げていく。本当に時間がかかる。制作している間に失敗するかもしれない。
でも、スタンドアップはすぐにフィードバックをうけられる。ネタをやって、少し磨いて、またネタをやる。
僕が思うのは、日本のビジネススタイルは根回し根回し、企画企画、バッチリ準備をしてから動き出す。海外は、とりあえずチャレンジをしてみる。トライして、フィードバック。
だから、スタンドアップコメディアンは日本ではスタートアップがやっていることと似ているし、トライ&エラーを繰り返している。
──スタンドアップコメディをスタートアップに例えられると、とても分かりやすいです。
なるべく、みんなの興味があるネタを集めていく。どうしても自分がオモシロいなと思ったものは、ライブで披露して、その反応を分析する。ネタを捨てなきゃいけない時もあるんだよね。
──そして、ウケるネタをどんどん集めていく。最高のネタたちを披露する場所は?
僕の今のパターンとしては、月曜と火曜はオープンマイクだから、なんでも言っていい。新しいネタを披露してみる。下北沢とか六本木とかのライブでは、みんながお金を払ってくれているから、なるべくスベらないネタを用意する。確実にヒットする完成版を披露する。
本当のプロのコメディアンたちは、オープンマイク、地方ライブ、そしてロンドンのような都市ライブという流れで、どんどん本気になっていく。
イギリスの場合は、その磨いていくプロセスの最後として、スタンドアップコメディで有名な「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」で完成版を披露するんだよ。
でも、今はやり方が変わっている。最後がNetflix。そこで披露されたネタは、もう二度と使わない。
「なんでも言っていいわけじゃない。
それを決めるのは、お客さんだ」
──スタンドアップコメディアンとして、Netflixの存在について、どう思ってます?
Netflixのおかげでスタンドアップコメディの知名度が上がっているから嬉しい。僕はロンドンに帰った時に今も必ずライブに行くようにしているんだけど、そういう必要がないから、どこでも観れて、いいと思いますよ。
非常にいいんだけど、唯一気になるのがちょっとだけ物足りない。
──Netflixで観れるスタンドアップコメディ、が?
そう。
僕は生でスタンドアップコメディを観ているから分かるけど、本当に生は爆笑的。Netflixの収録ではその臨場感をキャプチャーできないから、チャンスがあったら生のライブに行ってほしいと思っている。
──臨場感以外で、そのふたつに違いはある?
Netflixも台本はないんだけど、ライブの場合は、いいコメディアンたちは観客をイジる。その場にいないと体験できない瞬間がとても多い。
あと、ひとりでNetflixを観ている時はあまり笑わない。オモシロいと認めるだけになって、その後は笑わない。でも、ライブだと笑いが感染するし、雰囲気で笑っちゃうことがあるでしょ? そこは違うよね。
もちろん、日本の人にはできるだけNetflixで観てほしいけど、チャンスがあればライブにも行ってみてほしい。日本ではスタンドアップコメディに力を入れ始めている(ウーマンラッシュアワーの)村本さんとか、うちのおコメディ焼きライブでもいいし、だんだん見れる機会が増えてきているから。
あと、Netflixの『世界のコメディアン』で、英語圏に住んでいないスタンドアップコメディアンに焦点を当てているから、観てみたらオモシロいと思う。
──やっぱり国によって、ネタを披露するスタイルは違うんですか?
国によってではなく、人によって。最終的には自分のスタイルがある人が一番売れる。
おコメディ焼きのメンバーのひとりは、コメディアンソングを歌って笑いをとる。もうひとりは、どっちかというとコント。どんなスタイルでもいい。
スタンドアップはノールールだから。
──だから、下ネタと政治ネタもOK。
最近、よく日本のお笑い芸人が日本には下ネタや政治的なネタにしばりがあると言って、スタンドアップはなんでも言っていいのに!と批判しているけど、本当はちょっと違う。
確かにノールールなんだけど、言ってもいいことを決めるのはお客さん。目的はお客さんを笑わせることだから。
──誰も傷つかないダジャレを言ったとしても、お客さんが笑わなかったらダメで、逆にちょっとブラックでもお客さんが笑ったらいいってことか。要するに、笑わせるのが正義なんですね。
そう。
それがまだ日本では広まっていないから、僕たちのライブではヘイトスピーチやレイプ、自殺に関するギャグはNGにしている。そもそも、こんなネタで笑いを取るのは本当にハードルが高いし、あとはMCの仕事を大変にしているだけ。
スタンドアップのレジェンドのデイヴ・シャペルとか、本当にどんでもない発言をしているプロのコメディアンたちは、ネタを完成させている。さっきも言ったけど、オープンマイクでかなり練習をしているし、ギリギリのラインを知っているから、できる。しかも、彼らは話し方のプロ。
例えば、アリ・ウォンは100ドル以上もチケット代を払って集まる熱狂的なファンを相手にしているから、エロいネタでも披露できたりする。若手がオープンマイクで同じネタをやったら、それはウケないと思う。
でも、僕がMCをやるオープンマイクで挑戦にくる若手芸人は、そのネタを参考にして、ああいう刺激的な発言で笑いがとれる、なんでも言っていいと勘違いしている。
──完成した差別ネタでも笑わない人はいるはず。特定の人だけが笑うネタを披露するのは、スタンドアップコメディとしてアリ?
セックス、下ネタ、オナニーもいいんだけど……やっぱり女性のお客さんは笑わない。
だけど、10人のうち9人が笑って、ひとりがムスッとしていたら、僕はコメディアンの味方になりたい。全員を笑わせる必要はないと思う。
あと、この前オモシロいな〜と思ったことがあった。デイヴ・シャペルが東京でライブした時、それはNetflixにアップされるショーの最後の練習舞台だった。で、観客の人たちはスマホをロックのかかった袋に入れないとダメだと言われた。
彼がやりたかったのは、ウケるかどうか分からないギリギリのラインのネタをSNSにアップしてほしくないから、本番のネタじゃないのに批判がきたりするから、スマホを禁止にした。
──そういうことか。オモシロいっす。
前はオープンマイクの後に大学で披露するのが定番だったけど、今はみんながSNSにアップするから、コメディアンたちは大学を避けている。ギリギリを攻めるから、たまに言い過ぎていることもあるからね。
「不満を笑いに変えられるようになったら、
絶対に日本でも流行る」
──ところで、BJさんが考える“いいスタンドアップコメディアン”って、どんな人?
いろいろあるけど、最終的には言いたいこと。自分の視点を持って、メッセージを伝えるのがいいコメディアン。
今はスタンドアップコメディのネタは社会問題が多いけど、それは流行りなだけ。数年後にはオチ、オチ、オチのクラシックなスタイルに戻るかもしれない。みんな、飽き始めているからね。
それに、本当に自分で社会問題を解決したいと思っている人が少ない。前はいたんだけど、流れに乗っている人が増えているから、相対的に少なくなっている印象。言いたいことがないと、いずれはバレる。本当の考え、本当の自分をコメディにすればいいと思うよ。
例えば、日本語を話せる外国人コメディアンがわざとカタコトの日本語を話すのは、よくない。それには言いたいことが全くない。理由があって、カタコトになるのはいいんだけど。
誰にでも不満はあるでしょ? そういうフラストレーションを、みんなの前で喋って、笑いに変えて、解消してあげるのがスタンドアップの本質。
──アクティビストみたいな側面もあるんですね。
今の日本の企業は変化についていけていない場合もあるから、スタートアップが必要とされている。どんどん生きやすい世の中にするために。同じことが日本のお笑い業界にも起きている。よく思うのは、日本の事務所はお笑い芸人が支えているけど、海外は違う。お笑い芸人がベストで、事務所は彼らのサポート役。
それに気づいた若手芸人が、InstagramとかYouTubeとかをやっている。なんでPodcastをやらないのかは分からないけど。これから、誰でもできてノールールのスタンドアップに惹かれる若手芸人が増えていくと思う。
──そうすれば、日本のスタンドアップコメディが盛り上がりますね。
あとは、社会に対する不満をどれだけ上手に笑いに変えられるか。ここが一番難しくて、一番大事。できれば、スタンドアップは流行る。
あと、今は若者はそんなにテレビを観ないし、Netflixみたいなストリーミングサービスを使うことが多い。海外経験がある若者も増えているし、観たいと思う人が多くなると思う。おコメディ焼きのライブでも、そういう人がほとんど。
それと、みんな、新しい娯楽を求めているから、馴染みのないスタンドアップはそれに最適。
スタンドアップは、日本で絶対に流行りますよ。
イギリス、シンガポールなど東南アジア諸国で英語のコメディアンとしての経験を身につけ、ブラックユーモア満載のブリティッシュスタイルを貫くスタンダップコメディアン。2015年に日本に転勤して以来、日本語での活動も開始。コメディの他に、MC、俳優そして映像ディレクター業でも多忙な日々を送っている。
次回の「おコメディ焼きLIVE」は12月11日。
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