「スタンドアップコメディで人助けをしたい」小林快にインタビュー

今、日本でスタンドアップコメディが盛り上がり始めている。……とはいえ、“人気”というには時期尚早だ。

以前からTABI LABOではスタンドアップコメディについて紹介しているけど、もっと多くの人にその魅力を知ってもらうために、違う人にもインタビューをすることにした。

お相手は、小林快さん。

もう名前だけでピンと来る人もいると思う。彼はアーティストとしても活躍しながら、スタンドアップコメディアンを目指していて、「スタンドアップコメディに救われた」なんてことも言っている。

インタビュー前から、快さんがクールなキャラだとは知っていたけど、厚かましく、いろんなことを聞いてみた。

「話を聞かれないことが多くて、
いつも寂しさを感じていた」

© 2020 NEW STANDARD

──「スタンドアップコメディに救われた」って、どういう意味なんでしょう?

 

ちょっと前に、3年くらい付き合っていた女の子がいたんです。

それなりに一緒にいた時間が長かったから、将来はきっとこんな生活をしているんだろうなというイメージもあった。だから、その時は仕事を頑張っていました。

でも、それが行きすぎて、あまり気にかけてあげられることが少なくなって、別れちゃって……。

「他に好きな人ができた」とも言われたし、まあ、その後にいろんなことがあって、結局そうなった。

 

──言いにくいかもしれないけど、もうちょっと教えてくださいよ。

 

「オープンリレーションシップの関係にしたい」と言われたんです。

 

──他の人とも肉体関係を持つってことか。いきなり言われるとショックですね。

 

そうっすね。

自分はひとりの女の子に尽くしたいから、やっぱり、そのスタイルだと付き合う意味がなくなるなと思ったんです。だから、無理だと言って、ふたりで話し合って、別れることにしました。

めっちゃ好きだったし、ずっと一緒にいることを考えていたから、かなり落ちた。自分なんか本当にちっぽけな人間だな、とかを考えるようになって。

 

──「誰でもそうなりますよ」なんて言ったら安くなるけど、同じ立場だったら、同じような気持ちになると思います。

 

オレ、連絡をする友だちの数が少ないんですよ。

当時も何人かには連絡していたけど、それさえも悪い方向に捉えて、自分が持っているものは全くないと思ってしまっていたんです。

だけど、ある日「このままじゃ、ヤバい」と感じて。

 

──きっかけは?

 

特に覚えてないかな〜。今振り返ると、そう思えた自分を褒めたいですね。本当によかった。

そこからバーやイベントに行ったりとか、今まで経験したことがないこともやったりするようになって、自分探しみたいなことをやっていました。

少しでも自分が興味を持ったことをやれば、やりたいことが見つかるかな?って。

それでスタンドアップコメディに出会った。

 

──もともとスタンドアップコメディは知っていたんですか?

 

やったことはなかったけど、ちょくちょく観てましたね。

オモシロいなと思っていたから、ふと「東京 スタンドアップコメディ」と検索してみたんです。そうしたら、2時間後に下北沢で公演があることを知って。

なんか呼ばれている気がしたので、すぐに準備をして、家を出ました。

© 2020 NEW STANDARD

公演に行ったら、めちゃくちゃ笑わせてもらったコメディアンがいたんです。

自分から誰かに話しかけることが少ないんだけど、どうしてもお礼を言いたくて、思い切って話しかけてみました。どん底にいたのに、喋りだけで悩みを忘れさせてくれたから。

 

──そのコメディアンとは、どんな話をしました?

 

もう、ほぼ全てのことを。

休憩時間が暇だったから、散歩をしようかなと思っていたんですけど、彼が「コンビニに行こうぜ」と誘ってくれた。

自分なんて、ただ知らないヤツのはずなのに真剣に話を聞いてくれて、ずっと喋ってましたね。ビールまで買ってくれたし。

しかも、それで終わらないで、全てのコメディアンがネタを披露した後も一緒に飲んでくれたんですよ。

彼に出会えたのもスタンドアップコメディのおかげだし、そもそも笑っている間は楽しかったし、自分が落ちてから初めて太い光を見つけられた。

素直に嬉しかったですね。

 

──そこまで話を聞いてくれる人って、とても珍しい気がします。

 

姉が3人いて、俺って一番下なんです。だから、話を聞かれないことが多くて、いつも寂しさみたいなものは感じていた。

それに慣れている自分がいたから、久しぶりに心が通じ合えたんですよね。

 

──スタンドアップコメディアンになる道を選んだのは、やっぱり話を聞いてくれた人の影響は大きい?

 

そうですね。ただ、それ以外にも惹かれた部分があった。

みんながネタを披露して、みんなが笑う場所に立ってみたい。そんな思いもあります。演技の勉強も2年間していたし、多くの人を楽しませる中心になってみたいんです。

あと、昔はゴルフをやっていた時期もあって、かなり真面目にやっていた。でも、特定のことをしたら評価されるという仕組みが、どうしても自分には合わないな、と。ずっと自己表現の幅などを判断してほしいと思っていました。

 

──独創性や表現力、そういったもので評価されたいってことですね。

 

うん。得点を決めたからOKとかじゃなくて、もっと、自分自身を表現した行為をみてほしい。

それが“オモシロい”になるスタンドアップコメディは素晴らしい。いろんな要素が合わさって、コメディアンを目指すことにしました。

「何かに苦しんでいるなら、
自分のネタで笑わせてあげたい」

© 2020 NEW STANDARD

──ステージに立つ時は、どんな話をしているんですか?

 

今、ちょっと言いにくいな〜。

 

──え、なんで?

 

この前、頑張って考えたネタでめちゃくちゃスベったんですよ。

 

──そういうことか〜。ちなみに、どんなネタで?(笑)

 

マジでヤバかったですよ(笑)。

サラリーマンの生活をネタにしたんです。あんな大変な働き方をして、やりたいこともできなくて、なんで自殺をしないのか?……って話だった。

 

──めちゃくちゃダーク(笑)。

 

そう。

でも、初めてやった時には、観客にスーツを着たサラリーマンがいて、彼が「ほんと、そうだよね!」と乗ってくれた。だから、俺も「あ〜、彼は生きてるよ。よかった、よかった!」なんて返したら、みんなが笑ってくれたんです。

たぶん、他の観客はそのサラリーマンがいたからこそ笑ってくれた。笑っていいことなんだ、みたいな感じで。

それを違う機会で話したら、めちゃくちゃスベって。

ベストだと思っていたけど、改めて考えたら、ネタとして浅いし、オモシロくない。

逆に、今はスベってよかったと思っています。同じようにウケてたら、絶対に調子に乗ってた。

 

──以前、インタビューをしたスタンドアップコメディアンは「失敗を繰り返しながら笑えるネタを見つけていく」とおっしゃってました。

 

スベったからこそ、俺も見つけられたことがあります。

やっぱり自分の強みはいろんな国で生活をしてきたこと。マレーシア、タイ、ベトナム、アメリカの経験があること。

いろんな視点を持っている自分だからこそ、「これ、おかしくない?」ということを表現したい。サラリーマンの話は、ただのお節介でした。

今度は他の国で暮らす人たちがどうやって働いているのか?を語りながら、笑えるネタにしたいと思っています。

そうすれば、誰かの考え方を変えられるかもしれない。少しだけ幸せにしてあげられるかもしれない。

 

──快さんが経験したことを他の人にもシェアできそうですね。

 

やっぱり、自分は恵まれているんです。

言われたことをやりたくないから、満員電車に乗りたくないから、上司との付き合いで飲み会に行きたくないから、そういう風に考えながら、自分の好きなことをやってられている。

家族も友だちもサポートしてくれるし、めちゃくちゃラッキーなんですよ。

 

──確かに、やりたいことがあってもできない人はたくさんいます。

 

そんな状況に苦しんでいる人がいるなら、自分のネタで笑いにしてあげたい。それをやるには、もっともっと勉強が必要だけど。

© 2020 NEW STANDARD

──経験を積めば、観客いじりとか、ネタの幅が広がりそう。

 

ですね。

俺はまだ技術が追いついてない。ジミー・カーとか、よくできるな〜ってなる。本当にオモシロいし。

 

──目指している人はいるんですか?

 

いや、一人ひとりのスタイルが違うのが特徴でもあるから、これといった人はいません。好きなコメディアンはいっぱいいるけど。

それよりもやっぱり、自分の色を出していきたいっすね。いろんな視点でいろんなことを提示して、そこに笑いを加える。

笑うってことは共感してくれているはずだから、何かを変えてあげられるきっかけになると思うんです。

 

──これからもスタンドアップコメディは続ける予定?

 

一生やりますね。

まだ何も分からない段階だけど、明確に進むべき道は見えています。

 

──それはどんな?

 

自分がスタンドアップコメディに助けられたから、同じように助けられる人はたくさんいるはずです。だから、そういう人たちを助けるのが自分がやるべきことだと思っています。

ただの主張じゃなくて、笑いを通してメッセージを伝えられるスタンドアップコメディだからこそ、変えられると思うんです。

 

快さんがおすすめするコメディアンは
コチラでチェック!

これからの世界を創りあげていくであろう

新時代の『イノベーターズの頭の中』を覗いてみよう。

Top image: © 2020 NEW STANDARD
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。