サンガさん、いつか一緒にレコーディングしよう!

先日、自宅近くのカフェにいた時、60代くらいの黒人のオジさんに話しかけられた。

おじさんの名前はサンガという。サンガさんは、ブラックレザーのライダースジャケットにラスタカラーの帽子をかぶり、白髪混じりの髭を蓄えた優しそうな顔つきで、いきなり話しかけてきた。

「お前は、韓国人か?中国人か?」

「日本人だよ」

「おお!コンニチワ!」

そんな感じで会話が始まってお互いの音楽の話に。

ちょうどその時、店内で流れていたハウスミュージックには、アフリカンなドラムフレーズが流れていた。彼の母国プエルトリコは、南米の島国でアフリカからの移民が多い。ソカという音楽の発祥の地だと教えてくれた。

彼の祖先が住んでいたアフリカの一部の地域は、アフリカンドラムに最適な、硬い樹木や、動物の皮が手に入るから、彼らは海を渡るとき、その楽器たちを持ってきたそうだ。船で母国から奴隷船に乗って南米へと運ばれる何ヶ月もの間、彼らは波に揺られながら、ドラムを叩いてきたそうな。

持ち前のドラムがない時は、船の壁やら樽やらその辺の棒を叩いて、皆で一つの音楽を演奏する。みんなで演奏することで一体感が生まれ様々な感情を分かち合うのだそうだ。そうやって何ヶ月もの間船で移動しながらリズムを奏でていると、そのうち波の揺れにドラムのリズムが調和して、新しいグルーヴが生まれていくんだって。そのグルーヴが南米のリズムのルーツになっているんだ、と。

そういう話をひとしきりしたあと「そういえば名前は?」と聞かれたから、「YO (NYではYOと名乗ってる)だよ」と答えたら「おお!そいつはナイスな名前だ!実はマサイ族の伝統的な歌に、YOという歌がある。この歌はマサイ族が夕陽を惜しみ、今日に感謝し、明日への準備をする時に歌う歌だ。今から教えてやろう!おれは、昔直接マサイの戦士から教わったんだ。最近の若いマサイも知らないから、もしマサイに会ってこの歌を歌ったら人気者になるぞ!」そう言って歌い出した。

ハウスミュージックの流れる店内で、意気揚々とマサイ族の歌を教えてくれたサンガさん。見ず知らずの俺に自分のルーツの話や音楽のことなど話してくれた、新しい知識や経験を授けてくれた。その目や姿勢には他者への溢れる愛が感じられた。

こんな偶然の出会いや経験が人生に面白みを与えてくれる。

自分の知らないことを知った、感じたりすることはおれの喜びのひとつだ。

こういう時、ああNYだな、と感じる。

ありがとうサンガさん!いつか一緒にレコーディングしよう!

DAG FORCE/ラッパー

1985年生まれ。NYブルックリン在住のラッパー。一児の父。飛騨高山出身。趣味は、音楽、旅、食べること、森林浴。NYでの日常生活で感じたこと。そこからポジティブなメッセージを伝えていきたい。

Top image: © DAG FORCE
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。