生まれてから死ぬまでの時間をどう過ごすか?俺は……
俺はラップをはじめるよりも前に、詩を書きはじめた。
きっかけは、高校1年生の頃。ある一冊の本を姉からもらったことだった。
『17歳のポケット』山田かまち著
この本に出会って衝撃を受けた。瑞々しくて色鮮やかで、10代ならではの切なく、愛おしい感情が見事に表現された詩と絵……静かに胸の高鳴りを覚えて、自然と涙が出た。なによりも自分と同世代でこんな表現ができる人間がいることに驚いた。俺も今すぐはじめなくては、と思った。
当時の俺は地元の学校に通いながら日々を悶々と過ごしていた。
小学校の頃に「人生の意味、生きる理由」という命題について考えはじめて、そこに多感な時期が重なり、勉強なんかしている場合じゃないとペンは投げ出した。中学まで続けていたレスリングではジュニアオリンピックの全国大会で優勝したこともあったが、高校入学と同時にレスリングに対する熱はすっかり冷めてしまっていた。
何に勇んでいいのか、溢れ出るエネルギーをどこに向けていいかわからなかった。そんな時期だった。そのうち、洋服を自作したり、皮革を買ってきてカバンを作ったり……そのエネルギーはどんどん「何か表現をしたい」という方向にむかっていた。
そこに『17歳のポケット』だ。
著者の山田かまちは、1960年生まれ。同級生には氷室京介もいて、一緒にバンドを組んでいたこともあるらしい。だけど、彼は17歳のある日、ギターの練習中に死んでしまった。死後に詩や画が出版されて有名になった。
とにかくこの本に出会ってからの俺は、毎晩遅くまで詩を書くようになった。
故郷の飛騨高山は盆地になっていて、そのせいもあってか深夜はとても静かだ。自分の呼吸や心臓の鼓動音までが聞こえるような静けさのなか、真っ白なノートに向かうことが、おもしろくてたまらなかった。
自分の中から思わぬ言葉が出てくることがあり、それを眺めたり、否定したり、受け入れたりしながら、考えるための訓練だった。そうやって紡いだ言葉を、繰り返し声に出し、毎晩ひとつの詩にまとめた。翌朝起きて見直す。ノートが埋まっていくたびに、人生でもっとも重要な瞬間だ!と思った。いい作品ができない、自分の内面に向き合えない時もあった。そんな時は学校にすら行く気になれなかった。
その頃の詩のテーマは「愛とは?」とか「信じることについて」だった。きっと自分の哲学的な発見を未来に残そうと思っていたんだろう。だけど、実際にはもう手元にはない。高校卒業前のある日、なぜか自分が持っていてはだめだ!と思い立ち、その頃なんとなく好きだった女の子に全部あげてしまった。上京を前にこれから広く大きな世界に出て行くのに、古い自分の感情や考えにとらわれていてはだめだ!とか、考えていた。
結局、今思い返してみると……当時抱いていた感情とか感覚とか、考え方や自分の根っこみたいなものは何も変わってないと思う。
あの頃は飛騨の山奥の自宅の小さな机の上で、広く大きな世界に向かってペンを進めていた。今は広く大きな世界に飛び立って日々試行錯誤をしながら、あの当時の志に負けないような人生を生きようと勇んでいる。
なにも変わってない。
人生は長いようで短くて、短いようで長い。生まれてから、死ぬまでの時間をどのように過ごすかは、完全にそれぞれの手に、心に委ねられている。
俺はどんな状況も楽しみたい。
限られたその時間を「いい時間」にしたいと思う。
1985年生まれ。NYブルックリン在住のラッパー。一児の父。飛騨高山出身。趣味は、音楽、旅、食べること、森林浴。NYでの日常生活で感じたこと。そこからポジティブなメッセージを伝えていきたい。