サディスティックな街とマゾヒスティックな俺――DAG FORCEのナイスタイム

「ニューヨークって、本当にサディスティックな街だと思うんですよね」

ブルックリンの街角で、友人が口にした言葉だ。俺は妙に腑に落ちた。

それはとても寒い寒い3月の朝だった。日本では小春日和のなか、梅の花が冬の終わりを知らせるころ。ニューヨークはまだ昨晩の雨が氷に変わるような厳しい冬の朝だった。自分が育った故郷、岐阜県の飛騨高山も負けず劣らず寒いけど、海に近いニューヨークの風はもっともっと寒い。体感マイナス20℃ の朝はほっぺまで凍りそうだ。自然環境だけじゃない。この街は経済的にもなかなか厳しいところがある。

昔、働いていたレストランで、フッドの黒人の友達に質問してみた。

「一番安いランチ代っていくら?」

「テイクアウトで10ドルかな?それ以上安いのはアブないっしょ(笑)」

実際、ニューヨークではどんなに安いデリでもチキンオーバーライスは6〜7ドルくらい。そこに缶ジュース1〜2ドルと消費税を合わせると10ドルになる。

レストランに入ったら12〜15ドルにチップが2〜3ドル、消費税を加えると20ドル以上だ。ランチでそれだからディナーはもっとだ。2人で100ドルは安いほう。飲食代に関しては、日本の2倍ほどかなと感じる。

移民にとっては教育費も高い。医療も保険もめちゃくちゃ高い。もちろん家賃も。

ニューヨークで普通の生活をするのに一体いくら必要なんだろう?

そもそも普通の生活ってなに?

数字を参考にしてみよう。

マンハッタンで働く20代のホワイトワーカーの平均年収は14万ドル(およそ1600万円)。それぐらいあれば不自由のない生活を送れそうだ。反対に言えば、それぐらいないと不自由なのか……。

自然や経済だけじゃない。交通や郵便などの公共サービスもサディスティックだ。

まず、地下鉄の駅にエレベーターがないことが結構ある。そもそも想定していないのかな?エレベーターがあってもものすごく臭い。できるだけ乗りたくない。バスもベビーカーをたたまないと乗せてもらえない。

郵便局の仕事も非常に雑で、日本からの郵便の3回に1度くらいが届かない。配達員が面倒臭がってアパートメントの入り口に放置していくから、誰かが盗んだり、間違えて持って行ってしまったり。最初ニューヨークに来た時は本当にストレスだった。

などなど、こうして書いてみると、なーんもいいとこないじゃん。

じゃあ、どうして、こんなに大変なのにニューヨークで俺たち家族は暮らしているんだろう?

この答えはたくさんあって、説明するのが難しいんだけど、もしかしたら俺たちが相当マゾヒスティックだからかもしれない(笑)。

厳しい環境のなかで感じ取ったことが、生活や音楽活動の糧になってることは確かだ。それに、この街に住んでる人たちは、ほとんどみんな同じような体験をしていて、だからこそ同じような境遇の人を見ると手を差し伸べるし、また、厳しくあしらわれることもあるだろう。

厳しいからこその、人と人のつながりのあたたかさがこの街では感じられる。

お金がある人もない人も、毎日一生懸命に夢を描き、明日に希望を抱いて生きる街。人種のるつぼ、あらゆるダイバーシティが混ざり合い、「普通」とか「常識」とかが存在しないなかで、NEW YORKという共通項だけが、別々の価値観や文化を背景に持つ一人ひとりをつなげている。

サディスティックな街は、自分らしく生きることを楽しむ人たちで溢れているのだ。

Top image: © DAG FORCE
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。