カッコイイ郵便配達員の話「ユニークであることは大事」

つい先日、ブルックリンにあるブッシュウィックという地区を走っていた。

このエリアは街中のいたるところにグラフィティがあって街全体がアートミュージアムのようになっている。そんな周囲の風景に溶け込むように、グラフィティが所狭しと描かれた一台のトラックが目に留まった。

輸送用のトラックにみっちりグラフィティが描いてあることは珍しくないが、そのトラックはUSPSだった。日本でいえば日本郵政のトラック。さすがにアメリカでも半ば公共サービスであるUSPCのトラックにグラフィティが描いているのは珍しい。というか、俺は初めて見た。写真を撮ろうと自転車を降りて近づいていった。

しばらくすると、向かいのビルからUSPSの制服をラージに着こなした配達員の兄ちゃんがやってきて「俺のトラックやべーだろ?」と笑いながら話しかけてきた。

「このトラックめちゃやばいね!」と返したら、「ユニークであることは大事なことだからな!俺のトラックはNYで一番カッコイイだろ?ほら、反対側はまだスペース空いてるぜ!」と、“描きたかったら、どうぞ”とばかりに挑発してきた(笑)。俺は「次に見かける時、さらにアートピースが増えてるのを楽しみにしてるよ」と答えた次第だ。

会話からもわかる通り、この郵便トラックは落書きされたのだ。それを「やられた!」と頭を抱えるのではなく、「やべー!イケてる」と配達員は自慢しているわけだ。

トラックもカッコイイけれど、アーティストたちのエネルギーを纏ったトラックを誇らしげに自慢する配達員こそ、俺はカッコイイと思った。次の配達へ向かうために運転席に乗り込んで「またな!」と手を振る姿もエネルギッシュで様になってた。子どもの頃にこんなトラックと配達員に出会っていたら、もしかすると俺は今郵便配達の仕事をしてたかもしれない。

ユニークであることは、他者から批判されることも、社会に否定されることもあるかもしれない(あの配達員は、会社から怒られないのだろうか?)。

とにかく、俺は今を生きているし、いつか死んでしまうからこそ、無駄にはしたくない、今という実感を。

ちょっと大げさかもしれないけれど、グラフィティトラックを自慢する配達員の姿から、そんな決意を自分のなかであらためて確認した。

DAG FORCE/ラッパー

1985年生まれ。NYブルックリン在住のラッパー。一児の父。飛騨高山出身。趣味は、音楽、旅、食べること、森林浴。NYでの日常生活で感じたこと。そこからポジティブなメッセージを伝えていきたい。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。