「これからの持続可能性とは?」欧州でもっとも重要なキュレーターが語る
前回の記事では、科学、テクノロジー、アートの三者の融合を先導する欧州でもっとも重要なキュレーターの一人であるマヌエル・シラウキ氏について述べました。
今回は氏への取材を通じて、もう少しこのテーマを深堀りたいと思います。
──なぜ「S+T+ARTS」にとって科学、テクノロジー、アートの融合は重要なのでしょうか?
※「S+T+ARTS」/マヌエル・シラウキ氏がキュレーターとして参画している、欧州委員会が先導するプロジェクト
「『S+T+ARTS』は欧州における科学、テクノロジー、アートのコラボレーションや相乗効果を促すための取り組みとして生まれたもの。しかし、実際はこの3つの分野が連携することで一つのものになっています。
なぜなら、三者には深い部分で共通点が多いから。好奇心、研究、現状への疑い、問題提起、創造的な解決策の模索、そして発見を生み出すための実験などがそう。
こうしたプロセスを通して人類の発展のための新たな道が開かれ、予測不可能な出来事の連鎖が生じる。そして、これらの共通の特徴が、分野間の創造的な対話を可能にし、イノベーションと発明のサイクルそのものの更新を可能にしているのです」
──今注目しているテクノロジーはありますか?
「『素材』です。
新素材の開発が持続可能な生活のポイントであることに疑いの余地はない。廃棄物を価値ある製品にアップグレードするアップサイクルは非常に尊いのですが、私たちの資源消費パターンを変えるには小さな改善と言わざるを得ません。
アーティストにとって、この分野の持つ可能性は複雑であると同時に、非常に刺激的なものでもあります。イリス・ヴァン・ヘルペンやアンドレア・リンのように、新素材を使った作品を制作しているアーティストはすでに存在している。この傾向は何十年も前からアートの世界で高まっていて、今ではほぼ主流の一つと言えるほど。
そのなかにはベルリンを拠点に活動する菅野壮氏や、2017年にS+T+ARTS賞を受賞したやくしまるえつこ氏など、日本のアーティストも含まれます」
──アーティストは世間が関心を持つ遥か前からさまざまな可能性を模索、提示してきましたね。新素材は私たちの世界をどう変えると思いますか?
「科学やテクノロジーの世界でも、バイオポリマーからスマートファイバー、複雑な部品の自己組織化、あるいは廃棄物の細菌による自己分解など、新しい素材が世界を変える可能性を秘めてきています。
素材が有機物になれば、廃棄した段階で自然の一部に戻っていく。人間と自然を分断して考えない、自然界のサイクルに合った生産・消費モデルといえるでしょう。
また、合成DNAをデータ保存に利用するなど新しい分野の研究も始まっている。このように素材自体にイノベーションを起こすことで持続性の考え方に本質的な変化が見込まれるのです。
これからの持続可能性とは、単にエコやアップサイクルといった話ではありません。それは、自然界との新たな提携、資源利用の契約、ポジティブ・インパクトの新たな考え方、種を超えたコラボレーションを発明することなのです」
Google社が「Google Street View」を発表する遥か前、1978年にマイケル・ネイマークというアーティストが「アスペン・ムービー・マップ」というプロジェクトを通して自宅から遠隔地を訪れるという案を具現化しました。中谷芙二子氏は、1970年の大阪万博で化学物質を一切使わない方法で生み出した霧を使ってパビリオンを包み世界を驚かせました。
アーティストと科学やテクノロジーのコラボレーションは常に時代の一歩も二歩も先をゆく発想や視点を生み出してくれる。やはり、科学、テクノロジー、アートの融合は私たちの未来を明るく照らす強力なコラボレーションと言えそうです。
インタビュー【後篇】は30日15時公開