「アフターコロナの未来で大切なこと」欧州でもっとも重要なキュレーターが語る
2回にわたり、科学、テクノロジー、アートの融合がなぜ私たちの未来を創るのかについて紹介してきました。
では、マヌエル・シラウキ氏はアフターコロナの未来をどう見ているのか?この問いに対し、氏はこう答えました。
「私たちはすでに未来に生きている」
昨夏、コロナパンデミックの真っただなかに、彼がキュレーションした「NEAR+FUTURES+QUASI+WORLDS(近未来準世界)」という展覧会がベルリンで開かれました。
「QUASI」というあまり聴き慣れない単語は日本語に直訳すると「準」。ほぼ何かであるが、完璧にそれではないというニュアンスで使われます。つまり、この展示会では、ほぼ実現しつつある近未来の世界を提示することが目的でした。
──あの展覧会で伝えたかったこととは?
「あの展覧会は、芸術的、技術的、科学的な研究における特別な時間の捉え方に迫ったもの。創造的な仕事は決して完成することはなく、常に何かが近未来に投影されている。
たとえば、科学、テクノロジー、アートの世界では、何かが生まれた瞬間から次の探求と創造に向かって動き出し、そこに終わりはありません。科学者、技術者、アーティストは常に“ほぼ”完成した世界に生き、さらなる未来の実現に向け日々創造を続けています。つまり、創造とは何かが実現する瞬間からさらに一歩先に離れ、進歩的な動きと実験的な変化のなかで生きることだといえます』
氏はこの哲学的な考え方こそが、アフターコロナの未来を考えるうえで重要だと説明する。なぜか?
「パンデミックの影響で、最初は仕事や生活の変化に順応するのが大変でしたが、慣れてくると今を生きること、今を創りながら生きていくことの大切さを実感し始めます。人類史上初のコロナという危機に直面したことで、本当に大切なモノやコトに気がついた人も多いと思います。
希望とはさまざまな制約を課された最悪の状況でも、可能性を体験することから生まれるものです。困難な状況下でも課題を受け入れ、解決策を考え出し、共有し、乗り越えるためのエネルギーを生み出すことで未来への自信が湧いてきます。ただ単にすべてが良くなるという非現実的な約束や、行動を伴わない楽観的な観測から希望が生まれるわけではありません。
だからこそ、今の私たちに必要なのは受け身の未来予測ではなく、どんな未来を創りたいかを能動的に考え、現在という時間軸でそれを創造することだと言えます。アフターコロナの世界がどうなるかに思い悩むのではなく、コロナを経験した今、私たちがどのような世界を創り上げたいかが大切なのです」
シラウキ氏の「私たちはすでに未来に生きている」という言葉は、どんな未来を創りたいかという私たちの考えが現在を創っているということ。未来を持続可能なものにするには、今のうちに積極的に未来に向かって創造する必要があります。
今こそ協力して創造し生み出し続けることで、いつかコロナが過去のものになった時に未来の世界を大いに楽しみ感謝することができるはずです。