自撮り、追悼、または購入……「ピカソの虚像」を前に、あなたはどれを選ぶ?

スペイン・マドリードで開催されたアートフェア「ARCO」に設置されたある作品が話題をさらっている。

横たわる巨匠の彫刻。

Aquí Murió Picasso(ピカソはここで死んだ)』──思わせぶりな題名のついたこの彫刻は、現代アートの偉人=パブロ・ピカソの遺体を象った作品だ。

© adngaleria/Instagram

ただしこの像は、等身大のピカソに忠実に作られているわけではない。ブルーストライプのブルトンシャツにリネンの白パンツ、足元にはエスパドリーユ。実際よりも大きく、わかりやすく作られた姿は、大衆に浸透したピカソのイメージを体現したもの。

実際の人物像とは別に、“巨匠”として定着したピカソの虚像を具現化した存在なのだ。

さて、意味深な遺体の彫刻は、どうのような意図で制作されたのだろうか。作者のEugenio Merinoは、アートマガジン『Artnews』のインタビューでこう語っている。

「この彫刻は、1976年にディーン・マッカネルが出版した『The Tourist』に記された、観光スポットの特徴に基づいて作ったんだ。マッカネルはアトラクション的な観光名所の話をしているんだけど、僕らにとって、それはアートやアートフェアの現状を示しているものだった」

「アートの消費者みたいな連中が自撮りしてSNSにアップするための場所……ピカソが亡くなった場所も、SNS投稿のために大勢が寄って集れば、それは他の観光スポットと同様にただの”偽物”だよ」

彼が話しているのは、「芸術の祭典」であったはずのアートフェアが、マスツーリズムに支配されて“自撮りの場”になってしまったことへの批判。

あえて「自撮りしたくなるような」作品を展示することで人々の目を惹き、その思惑通り、訪れた“ツアリスト”が写真を撮ってSNSに投稿する様を嘲笑う。また、この作品は展示と並行して販売もされており、「金銭」という本来は作品そのものを規定すべきではない価値も提示している。

つまりこれは、金銭と大衆的な話題性のための作品

作品を楽しむ・鑑賞するために美術館を訪れるよりも、SNSに投稿したり、短絡的な消費行動に陥っている多くの来場者の状況を風刺しているのだ。

SNSに投稿するだけのために美術館やアートフェアに訪れる現代の風潮を嘲笑い、観光的な興行収入や販売利益を生み出すMerinoの手口は、見物人を手のひらで転がしているようでおもしろい。

思惑を知るとなおさら“話題性”が強まる作品だが、皆さんはどのように感じるだろうか。あなたにとっての芸術とは、短絡的娯楽か、自身のステータス向上の道具か、またはそれ以上の何かか。

あるいは、もし一つ叶うなら、あなたはこの「ピカソの虚像」を前にしたら何をする?

すぐさま写真を撮ってストーリーに上げる、意味深な作品をじっくり眺める、芸術の価値を噛み締めて哀悼する、それとも購入を検討する……。

ぜひ、自身の価値観と向き合ってみて。

Top image: © Atilano Garcia/SOPA Images/LightRocket via Getty Images
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