「音楽」と「AI」の共存。立ちはだかる3つの課題とは

「ビートルズ最後の曲はAIを使って完成。」

BBCのラジオ番組の中で、ポール・マッカートニーが未完成になっていたビートルズ最後の曲をAIを使って完成させ、年内にリリースさせると明らかにしたことは記憶に新しい。

このように、AIはすでに音楽業界にも広く浸透している。

いっぽうで、AIを作曲ツールとして活用されることで人間の手でイチから作れられるオーガニックの作曲プロセスが終わってしまうのではないか、との懸念の声もある。

ジェネレーティブAIの隆盛によって、AIがつくった作品の権利に関して法的・倫理的な議論が行われるなか、音楽業界のなかでのAIが持つ課題についてアーティストや作曲家などの専門家のコメントを米メディア「GeekWire」が紹介している。

彼らの見解を紹介していこう。

①AIがつくる音楽は人間らしさがない

ミュージシャンでDJのEva Walker氏は、音楽において”人間の実体験”が重要な要素だと考えている。

彼女がつくる音楽は彼女自身の人生、経験、周りで起こったことに基づいてつくられたもの。また、ラジオで流す音楽のプレリストをつくる際も同様だ。

つまり、彼女の生み出す曲は自身の本能的な感覚に基づいており、AIはその感覚を持たないため、彼女の求める音楽を再現することはできないというわけだ。

②AIがつくる音楽は“おもしろみ”に欠ける

シンガーソングライターSera Cahoone氏の意見は……AIがつくった音楽は本当に音楽と言えるのかと疑問に思っていること。

というのも、彼女は元々歌詞を書くことが苦手だったため、試しにChatGPTへ「5年前になくなった犬」というテーマで歌を作ってもらったという。興味深い結果になったものの、そのうち人々は飽きるだろうと考えているらしい。

もしも、AIがクオリティの高い音楽をつくることできたとしたら、適切な指示さえ与えれば、誰でもミュージシャンになれてしまうということになる。

現状、音楽制作においてAIは補助的なものであり、作詞作曲という重要プロセスを補完できるレベルにはまだ達していないということだろう。

③増え続ける音楽コンテンツを
コントロールできていない

レコードレーベルの共同代表を務めるTony Kiewel氏は、AIによって音楽コンテンツがあふれる可能性について語っている。

現状、「Spotify」「Apple Music」などのデジタルサービスプロバイダーが、レコード・レーベルやアーティストの脅威となっている。しかし、それに加えてAIコンテンツも入ってきてしまうと、音楽サービスが氾濫する可能性がある、と同氏は主張する。

実際にSpotifyは現在「Boomy」という、何百万ものトラックを作成している音楽アプリが“ストリーム操作”をおこなっているとして抗議していたりも。

今後、音楽業界の専門家たちの意見を覆すだけの革新的サービスが現れる可能性は十分にあるだろう。生成AIをどう活かし、どう共存する未来を模索できるのか。AIという可能性が音楽をどうさらなる高みへと導いていくのか?そこには責任ある方法での活用という人間の倫理観も重要になってくるに違いない。

Reference: BBC, Geekwire
Top image: © iStock.com/Yurchanka Siarhei
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。